メキシコシティ国際空港、深夜1:05。
ANAの最長路線メキシコシティ〜成田NH179便は、毎日この時間に日本に向けて旅立っている。
その距離11,186km。これは、東京からロンドンやニューヨークよりも遠い。
文字通りの東京起点の最長フライトで、飛行時間は14時間15分。
そんな距離の旅を毎日就航しているというのが、私の感覚では違和感がある。
子供の頃、東京駅や上野駅に行って、九州特急や北海道方面への連絡列車が発着しているのを見て、「こんな長い距離の旅をする列車が、なぜ毎日運転されているんだろう?」と素朴な感想。
自分は自分で「旅人」だと思ってるけど、実は「旅人」って、無数にいるんじゃないか。
長距離を旅する乗り物が頻繁に運行される違和感。
それは、銀河鉄道999が1年に1本しか運転されていなかったからかもしれない^ ^
超蛇足になってしまったが、このANA便(NH179便)は、単に飛行距離が長いだけでなく、「高地空港」「偏西風」「重量制限」など特殊な条件がいくつか重なっているため、他の路線とは違う運航上の特徴がある。
まず、メキシコシティ国際空港が、標高約2,230メートルという高地に位置しているため、空気が薄く、エンジン効率が低下し、長い離陸滑走距離が必要になる。
そのため、最大離陸重量に制限がかかり、燃料や荷物、乗客数までも調整する必要が生じる。
さらに、帰国便は「偏西風(ジェット気流)」に逆らうフライトになるため、偏西風に乗る往路より飛行時間が1〜2時間長くなる。
まさに、ANAのメキシコ発便がANA全路線で最長なのはこのため。
そして上記の高地&長距離という条件から、機材の燃料搭載に工夫が必要で、季節や天候によっては座席数に制限がかかることも。
つまり、満席で飛べない条件もあるらしい。
でも、ANAがこの路線に使用しているボーイング787-9型機は、燃費効率が良くて長距離向き。
そして、わが旅人は、乗り物なんて、乗ってる時間が長ければ長いほど幸せを感じる特殊な生き物。
さらに、これからおさまる5Aのシートは、90,000マイルを投じて得たビジネスクラス。
最後までテンションが上がる2024年8月の中南米ひとり旅に感謝しながら、ボーディングです。
中南米旅のフィナーレはANA787-9機スタッガードシート
ボーディングブリッジに窓がなく、乗り込むANAの機体を拝めなかったことに少し心残りなボーディング。
しかし、往きに乗ったNH180便と同じ「5A」のシートが出迎えてくれました。
フルフラットのスタッガードシート。このシートなら、何時間乗っても疲れることはない。
この787-9機をどのように運用しているかわからないけど、実は6年前にもNH180と179でメキシコシティを往復した時、シートはともに5Aだった。
まったく同じ席に座るなんてことがあったりして^ ^
機内はガラガラ。
席数を制限しているのか、単に乗客が少ないだけなのかわからないけど、ビジネスの搭乗者数は10人もいない。
なので、CAさんのおもてなしは、そのぶん手厚い。
いつもながら「○○さま、ご旅行お疲れ様でした」と、美しいお顔に満面の笑みをたたえたCAさんが、名前で呼んでくれることに王様気分。
日常生活において、こんな気持ちになることは、まずない。
ウエルカムドリンクを注いでくれ、CAさんが話しかけてくれる。
「お仕事・・じゃないですよね」
中南米を10日間で歩いてきたことを話すと、体験話に耳を傾けてくれるCAさん。
乗客が少ないからだろうけど。
地球は丸いんだな、ということを想起させる飛行ルート。
まだ空港にいるのに、高度2,233mという表示がすごい。
あらためて、ANAの定時運行に感謝。
成田に6時に着いてくれるから、そのまま出勤して、クライアントとの打ち合わせができるんです。
さて、機体がゲートを離れます。
深夜でもフル稼働のメキシコシティ国際空港。
離陸。これから始まるロングフライトへの期待と、旅が終わる帰国便独特の名残惜しさが入り混じる瞬間。
遠ざかるメキシコシティの光が、旅の終わりを告げる。
碁盤の目のような、コロニアル都市ともお別れ。
今回歩いたサンホセ、パナマシティ、ボゴタ、プエブラ、すべてコロニアル都市だった。
旅先での思い出が余韻のようによみがえってくる。
中南米の街並み、人々の生活、文化の奥深さ、案内してくれたガイドさん。
今回の旅は、これまで50回以上続けてきた海外一人旅の中でも、特に心穏やかに過ごせた。
かけがえのない体験になったと思う。
日本はもうすぐ夕暮れ。
そしてこの機には、後ろから夜明けが追いかけてきます。
数えてみると、10人どころか5人しか乗ってない機内。
みんな、すぐ眠ってしまうのかと思いきや、映画やアニメを鑑賞しているようです。
空の上の「うなぎ蒲焼定食」
11,365kmのカウントダウン開始。
水平飛行に移ると、すぐ「お食事、すぐにご用意できますが、いかがなさいますか?」と優しく声をかけてくれるCAさん。
そして、メニューを差し出しながら、時差ボケになりにくい食事タイミングを指南。
それによると、離陸してすぐに食事。そして8時間ばかり眠る。
そこで朝食にして、その後コーヒーでも飲んでるうち成田に着くと身体の調子も整うそうだ。
たしかに、日付変更線を東から西へまたぐフライトは時差ボケがきつくなる。
私はありがたくそのすすめに従うことにして、「うなぎ蒲焼定食」をご馳走になることにした。
食前酒は、往きの便でもいただいたメドック産のボルドー。
気分が良ければ、赤ワインでも和食に合います。
前菜もいただきました。
スモークサーモンのカナッペ。
機はまだ北米大陸上空。太平洋横断フライトの無事を祈って乾杯。
運ばれてきた「ANA特製うなぎ蒲焼定食」。
空の上で「うなぎ」なんて、本当に洒落てる。
6年前のメキシコからの帰国便でも、うなぎを口にした。
でも、同じビジネスでも、デリーやクアラルンプール、ジャカルタ便では目にしたことがない。
路線によって、メニューが統一されてるのかな。
温めただけだとは思うけど、熱の通りかたがぴったりの蒲焼でした。
時刻はメキシコ時間の午前2時。
そろそろ眠ろうかと悩んでいたところに、私の酒好きを見抜いてくれたCAさんからふたたびワインの差し入れ。
CAさんは、乗客の顔色で、何を考えているか、何を求めているか、察してくれるんですね。
さすが就活希望者ナンバーワンの常連企業です。
幸せな就寝前の一献となりました。
では、おやすみなさい。
赤ワインが、ほどよく旅の肉体疲労をほぐしてくれる。
そして、乗客が少ないので、モニタの光すらない、本当の真っ暗。
フルフラットシートをベッドにして、ぐっすり眠ることができました。
ちなみに、真っ暗で写真は撮れませんでしたが、フルフラットにすると本当にベッドになります。
これは、往きのNH180便のときの写真です。
「お目覚めのあとに」鯖利休焼き定食の朝食
ぐっすり眠りに落ちて、目を覚ますとANA機はまだ西半球。
それでもメキシコから6,715km、成田まで4,931kmと、半分以上来てしまった。
時計を見れば、メキシコ時間の朝9時。
午前2時に寝たから、7時間一度も起きなかったことになる。
この夢空間で過ごせる時間は、残り6時間だ。
ふと、テーブルの上を見ると、手紙が置いてありました。ありがたい心遣いです。
9時だからちょうど朝食の時間。
さて、和食にするか、洋食にするか。
日本を目指して飛んでいるのだから、和食にしましょう。
運ばれてきた「鯖利休焼き定食」。
まだ夜も明けておらず、機内も真っ暗だけど、メキシコ時間は9時過ぎだから、お腹は空いている。
だから、とても美味しそうに見える。
成田に着いてすぐ仕事だけど、まだ6時間あるから、梅酒を少し飲むくらい許されるでしょう。
ほどよい温かみの、胡麻をまぶした鯖の利休焼き。
お造りも負けてない。とても新鮮な鰆でした。
夜明けが背後から追いかけてくる。完全に追いつかれた頃に成田。
梅酒を飲んで、もう一眠りです。
日付変更線の上でいただく蟹雑炊
1時間ほど眠ると、ANA機はちょうど日付変更線の上。
なんとなく、小腹が空いて、「蟹雑炊」をオーダー。
ANAのビジネスメニューにおいて、蟹雑炊は初めてのオーダー。
香りがとてもいい。熱々の蟹雑炊。
空のホテルでいただく蟹雑炊は逸品でした。
台風を避けて夜明けの日本に到着
もう一眠りして、時刻はメキシコ時間12時。
日本時間は午前3時。
一生懸命西に逃げていたANA機でしたが、ついに太陽に追いつかれたようです。
そして、日本時間午前4時。
あと2時間で到着。そろそろ、しゃんとしたほうがいいでしょう。
トータル9時間ぐらい寝たかな。
すっかり夜が明けた太平洋が美しい。
すかさず、CAさんが運んできてくれたモーニングコーヒー。
もうほんとに旅は終わりですね。いろんなことが思い出されてくる。
快適な10日間だった。
訪れた国は、コスタリカ、パナマ、コロンビア、そしてメキシコ・・・
この旅で、
- イラス火山に登った
- サンホセからパナマシティまで国境越えの17時間のバス旅
- パナマ運河を眺めた
- 世界遺産のパナマシティ旧市街を歩いた
- カリブ海を臨むサンロレンソ要塞を眺めた
- モンセラーテの丘からボゴタの街を見下ろした
- スラム街エルパライソの街を歩いた
- コロニアル都市プエブラの街を歩いた
こんなにたくさんの体験ができて、なんのトラブルもなく日本に向かってる。
ふとニュースを見ると、台風5号が東北を直撃したらしい。
進路が少し違っていたら、この帰国便も影響を受けていただろう。
旅の間、どこでも天気に恵まれ、予定どおりに移動できたのも、旅の神様に見守られていたおかげだと思わずにはいられない。
番組を切り替えるとウクライナのニュース。
ゼレンスキーさん、がんばれ!
さて、そろそろ、アタマの中を仕事モードに切り替えよう。
関東の東海上は台風一過の晴れ模様。
成田到着を知らせるアナウンスとともに、ライトがカラフルに変化しました。
眼下には九十九里浜。
日本に帰ってきたね。
そして、ANA機は少々旋回して、北側から成田空港に着陸です。
10日ぶりの日本。
成田空港到着の一番機なのかな、ビジネスのキャビンから優先的に降機した私は、一番にイミグレを通過できました。
成田空港第一ターミナル6:52発の総武横須賀線快速のグリーン車におさまります。
出張でもない、完全なプライベートな旅でありながら、最終目的地は「自分の仕事場」というこのギャップが、私の旅のスタイルを象徴している。
旅の終わりにそのまま社会人としての顔に戻る。
そんな切り替えも、今ではすっかり日常だ。
出発の際のブログを読み返すと、NEXの中で、
「私はかつてないほど穏やかな気持ちでキャリーを転がし・・・」
なんてくだりがある。
帰国した今も、かつてないほど爽やかな気分で出勤だ。
機内で9時間近く眠ったこともあるけど、思いこがれていた旅を快適に体験できたからだと思う。
こんな気持ちになったのも久しぶり。
とりあえず本日は、一生懸命仕事をしよう。
仕事を終えて帰宅。
キャリーを開けると、自分へのお土産テキーラが出てきました。
しばらくは、テキーラを味わいながら、撮ってきた写真を1枚1枚眺めながら、旅の記憶を定着させていきます。
今回の中南米5泊10日ひとり旅の全行程・旅費などのまとめはこちらです。
ビジネスクラス搭乗記はこちらもどうぞ
2023年8月 エミレーツ航空 クアラルンプール ⇒ ドバイ
2024年5月 ミアットモンゴル航空 成田 ⇒ ウランバートル