「令和」最初の朝。2019年の5月1日です。
わが国では、令和祭りで盛り上がっていることと思いますが、私は日本から遠く離れた新疆ウイグル自治区トルファンで目を覚ましました。
10連休を利用したシルクロード弾丸旅行も、約半分を消化。折り返しです。
本日は、ここトルファンから、タクラマカン砂漠の西の果て、カシュガルを目指します。
まずは、今いる場所トルファンと、一昨日までいた敦煌、そしてこれから向かうカシュガルやホータンの位置関係を整理します。
タクシーで60キロの移動 南疆線の起点トルファン駅へ
夜明け前の朝7時。フロントに下りていくと、フロント嬢が、カウンターに横顔を乗せて眠ってる。
それが、なんとも気持ちよさそうな表情だったので、起こすのがはばかれましたが、カードキーを返却せねばならず、やむなく揺り起こします。
寝顔を見られてバツの悪そうなフロント嬢にタクシーを呼んでもらって、「吐魯番高昌路店」(別名:全季酒店)を後にします。
乗るべき列車は、トルファン10:09発のホータン(和田)行き。
私は、この列車をカシュガルで降ります。
すぐに来てくれたタクシーは、気持ちいいほどの新しいクルマでした。
トルファン駅は、トルファン市街の北60キロほどのところに位置しています。
タクシーで60キロを移動するのは、久しぶりですが、この時間バスは走ってないし、100元(1600円)で行けるらしいので、快適なドライブを楽しみます。
タクシーは、快調にトルファン盆地を北に飛ばします。
一昨日の夜、私が降り立った駅は「トルファン北」駅。
いわゆる新幹線駅で、最近出来たためか、市内から15キロほどの距離。
本家本元の「トルファン」駅の方が、さらに北に位置するというのに、より南側にある駅に「北」という称号がついています。
これは、町をベースに考えたということなんでしょう。かつては、「トルファン北」駅はなく、トルファンを訪れる観光客は、みな「トルファン」駅に降り立って、バスで1時間以上かけてトルファンの町に入ったと聞いています。
そんなことを考えていると、急に右の視界が明るくなりました。
忘れてましたが、本日は令和最初の日。令和「初日の出」です(^_^)v
乾いた空の色が刻々と変わっていくのを眺めながら、旅の後半、タクラマカン砂漠をぐるりと半周する、これからの日程を思い浮かべます。
「天山南路」の「一帯一路」 南疆線
新疆ウイグル自治区の中央を大きく占めるのがタクラマカン砂漠。
タクラマカン砂漠は、地図を見ればわかるように、天山山脈とクンルン山脈に囲まれるように位置しているので、古代から西方からパミール高原を越えてくる旅人は、必ずこの砂漠を横断して敦煌へ向かうことになりました。
天山南路としての南疆線
このタクラマカン砂漠の北と南に開拓されたシルクロードが、トルファンからカシュガルへ通じる「天山南路(西域北道)」と、敦煌から、クンルン山脈の北側を通ってホータンへ通じる「西域南道」。延々と砂漠の中を歩み、その上、ヒマラヤ山脈からつながるパミール高原、文字通り「世界の屋根」を通らなくてはならない、かなり過酷なルートでした。
一方、紀元後には、天山山脈の北側を行く「天山北路」が開拓され、パミール高原を越える必要もないということで、重宝したようです。
ところで、この過酷な「天山南路」に鉄道が通じたのは1999年のこと。
玄奘三蔵が、天山南路を歩いたのが630年として、実にその1369年後に、現代文明の足が通じたんですね。
トルファンから、天山山脈を貫いて、シルクロードの十字路カシュガルに至るルートは、玄奘三蔵が歩いたということだけでなく、タクラマカン砂漠や天山山脈の眺めが素晴らしいらしく、ぜひとも陸路で辿ってみたいと、ずっと思っていました。
「一帯一路構想」としての南疆線
もちろん、南疆線建設の動機は、そんなロマンチックなものではなく、天山山脈の山中に眠る鉄や銅などの鉱物資源やタリム盆地の油田の開発などがその目的で、南疆線の早期開通は新疆ウイグル開発の生命線ともいえる中国共産党の大命題だったようです。
この、中国政府の肝いりで建設された南疆線は、思いのほか、難工事だったようで、トルファンからカシュガル方面に鉄路をつなぐには、天山山脈の東端を越えなくてはならない。
さらにトルファンが、灼熱そして冬は酷寒の地である。気温変化が激しく、そして天山山脈から吹き降ろす絶え間ない強風が、難工事に拍車をかけたらしい。
1974年に着工された工事が、25年の時を経て、カシュガルまで到達したときは、私のような旅人にとってはちょっとしたニュースだったらしく、実際、紀行作家の下川裕治さんは、その体験記などを綴っています。
その後も、中国共産党のプッシュは続き、天山山脈を越える難所であった部分に、長大トンネルを開通させ、所要時間の大幅な短縮を実現しました。
これについては、本文で述べますが、驚くのはまだ早く、カシュガルから南下し、パキスタンを通ってアラビア海へ抜ける鉄道敷設も構想中で、これが、中国の「一帯一路構想」の一つ。
カシュガルから先、パキスタンのペシャワールまでは、直線距離にしたら約600キロ。
しかし、その間には、世界第二の山k2を擁するカラコルム山脈がひかえている。
当面は、道路建設が先行して進められるようだが、鉄道建設も平行して検討中というので、中国の莫大なマネーを持ってすれば、実現できてしまいそうなのが怖い。
なお、パキスタンのグワダルという港町までが「一帯一路構想」に入っていて、グワダルは、すでに中国が大規模な資金を投じて、経済特区としている。
グワダルは、イランまで100キロ足らずの位置にあるため、中東の石油は、陸路を経由して、中国本土に運べることになる。すなわち、インド洋やマラッカ海峡を通らずとも、中東から石油を買うことができるのだ。
この話を知ったとき、思ったのは、やっぱり人口13億人を構える独裁政権はすごいということ。
プロレタリア文化大革命のような、道を間違えることがなければ、数年後には、アメリカなんぞ経済規模では抜いてる。
本当にそう思う。
話がそれましたが、私は、古代シルクロードを偲びながら南疆線に乗り、景色や乗客の雰囲気などを楽しみたいと考えている。
一方、中国政府からしたら、南疆線は「一帯一路構想」の基軸であって、国家戦略路線そのもの。
そのギャップが、どんな旅経験を生んでくれるのか。
南疆線でのカシュガルへの道中はさまざまな意味で楽しみでありました。
そんなことを、ぼんやり考えながら、これから数時間後に目にするであろう南疆線の景色に、思いを馳せます。
trip.comでの中国列車の予約について
ところで、私は中国を旅するとき、よく列車を利用しますが、その際の予約はtrip.comという旅行会社のアプリを使っています。
このtrip.comについて、というか、中国の列車予約について、今回経験したことを記します。
同一人物で複数列車の予約はできない?
柳園南からトルファン北までを予約したときですが、バスの時間が合わなかったことを考慮して、保険のつもりで16:30発の列車と、17:05発の2つの列車を同時に予約しようとしたのですが、できませんでした。
2つの列車に同一人物が同時に乗るのは物理的に無理。そういう状況下では、チケットが発券されない仕組みになっているようです。
チケットにパスポート番号や姓名が記載されているのは、共産党による行動監視かなどと思ってましたが(もちろん、それもあるんでしょうけど)、ダフ屋行為を撲滅させるシステムのようです。
とにかく、人気のある列車だと、あっという間に売り切れるなんて、日常茶飯時みたいですから。
駅ごとにチケットの割り当て数がある?
これも推測ですが、長距離客優先の法則でもあるのかな。
左側が、トルファンからカシュガルまでの列車を予約しようとした画面。軟臥(2等寝台)はあと2席か、急がなきゃ、と思いながら、何の気なしに、ウルムチ⇒カシュガルで同じ列車を検索すると、まだあり余っています。(右側)
トルファン⇒カシュガルより、ウルムチ⇒カシュガルのほうが長距離。長距離利用者の利便を図ってているのでしょうか。
だからと言って、ウルムチから買って、トルファンから乗るつもりでいたとします。
すると、当然、ウルムチ⇒トルファンは、指定された席や寝台は空席のまま。検札に来た車掌が、権利を放棄した席と考え、他の乗客に回してしまうでしょう。
ということは、割り当ての多そうな区間で押さえておいて、実際には短区間で乗車するという方法はできないのだろうか?
この件は、trip.comにチャットで確認しましたが、「列車の指定は、乗車駅から下車駅まで、ちゃんと指定してお乗りください。」と教科書的な答え。いまいちはっきりしませんでした。
利用者の情報は?
これは、まさに利用する側の考え方ですね。中国の企業のアプリなんか使ったら、個人情報がすべて抜かれてしまうのでは・・・気持ち悪く考える人も多いでしょうね。
以下、完全に推測ですが、中国の企業のサービスを利用したからといって、そのすべてが共産党に行くわけではない(行くのかもしれないけど・・不明・・)
私は、中国を旅する場合、自分の行動は、すべて共産党に提供されていると思って行動しています。
アナーキストとして手配されているならともかく、一旅行者の行動が把握されているからといって、目くじら立てる必要があるのか。
もっと言えば、トルファンでもカシュガルでも、ホテルで滞在登録が行われます。
ということは、私の行動なんて、十津川警部でなくたって推理可能です。
先日、アリババの創業者ジャック・マー氏が中国共産党員であったことが報道され、ちょっとした騒ぎになりましたが、こうなるとアリペイの決済情報もすべて共産党に渡っている可能性も否定できないでしょう。
でも、それだって、世界各地でグーグルマップを立ち上げれば、訪れた場所から検索したワードまで、すべてアメリカ政府に渡っていると言えないこともない。アメリカ社会なんて、所詮そんなもんです。
私は、情報社会を不必要なまでに敬遠すれば、機会損失のほうが大きい、と考えています。
中国本土を旅すれば、ホテルの滞在登録から街中の監視カメラによって、行動はすべて記録されるのである。アプリを使わないからといって、回避できるものではない。
それでも嫌だ、という人は、中国を旅しなければいい話だし、私は、自分の行動がデータベース化されること以上に、中国大陸の旅で感銘を受けることのほうが大きいので、今後も旅を続けます。
一番怖いのは、中国と日本の関係がさらに悪化し、おいそれと訪問できなくなってしまうこと。これだけはやめて欲しい。可能性はなくはないので、今のうちに、できるだけ旅をしておこうと思うのみです。
とりとめもないことを綴りましたが、旅の道中、こんな雄大な自然の中を車で走っていると、さまざまなことが頭に浮かんでくるものです。
タクシーは、単調なまでにまっすぐに伸びる道を、北に向かって走り続けます。