部屋に荷物を置いて、ホテルを出ると、さっきの男が待ち構えていました。
「詐欺師」とわかりつつ、夜のバラナシの案内をお願いする。
そういえば、この男の素性は、なんなんだろう?
このガンガー沿いのホテル群には、タクシーは横付けできないし、初めてこの街に来た観光客がゴードウリヤー交差点からホテルまでたどり着けるわけがない。
つまり、大通りからホテルまでの特設案内人のような存在なのかも。
当然、タクシーの運転手とは繋がってるだろうし、さっき払った1,000ルピーの中から、こいつに一部支払われてるんでしょう。
私は男に言いました。
私「30分ほど、この旧市街で賑わってるところを案内してくれるだけでいい。いくら?」
男「気持ちだけでいい。」
私「それは、だめだ。値段を決めてくれ。」
男「あなたがハッピーになった分だけ、払ってくれればいい。」
私「FIXされないなら、案内を断る。」
男「わかった、わかった。カネは要らない。」
私「うそつけ!カネがいらないわけないだろ。そういうLIARが、この国にはいっぱいいると、このガイドブックにも書いてある。」
男「ほんとうにカネは請求しない。」
私「だから、ウソはやめてくれ。値段を決めてくれ。」
と、こんな感じで5分くらい、やりとりしただろうか。
私が「I will not pay.」「You do not need money, really?」を繰り返し、いちおうカタチだけ了承するので、案内をお願いすることにしました。
もちろん、信じたわけではありません。
最後は、どうせ、いくらかのカネをよこせ、と言ってくるんでしょうから、300ルピーぐらいは払うつもりで、夜の街にGOです。
こういう国(どういう国だ?)では、カネはいらないと言っておいて、後から請求するなんて、日常茶飯事。
日本人の人の良さにつけ込むんですよね。
「カネはいらないと言ったかもしれない。しかし、オレは、それ以上の親切をオマエに与えた・・」とか、
「カネはいらないんだ。But、オマエは、あの神様をみて、奉仕したい気持ちにならないか・・」とか、
普段だったら、こんな男をつかまえることなく、勝手に歩き回るんですが、なにせ初めてのバラナシ。
そして夜。本気で、迷子になりかねません。
本音を言えば、早く街を歩き回りたいんです(笑)
それに、わずか、数日といってもインドを歩き回る以上は、これから、必ず現地の「詐欺師」となにかしら起きるでしょう。
奴らの手口を学んでおくことは、決して損なことではないはず。
予行練習のつもりでもありました。
エキゾチックなバラナシの夜
男の後ろについて、夜のバラナシの旧市街へ。
こんな時間でも営業している散髪屋さん。
こんな時間でも遊んでいる子供。
ところかまわず、わがもの顔で歩き回る牛。
うん、やっぱり、出歩いてよかった・・
さっき、タクシーを降りた交差点から続いている通りに出ました。
この辺が、バラナシの賑わいどこ。
後で調べたら、「ダシャー・シュワメード・ロード」というようです。
たしかに、この時間でも賑わってる。
ふつうに牛もいる。
男が「火葬場見てみないか?」と聞く。
「この近く?」「そうだ。」
「カネは払わないよ。」「わかってる。」
ここバラナシでは、ガンジス川のガートに火葬場があり、そこで燃やされた遺灰がガンガーに流されれば、輪廻からの解脱を得られる、といいます。
なので、火葬場には、バラナシ滞在中には、行ってみるつもりでありました。
男は、路地をどんどん進みます。
後ろからクラクション。あわててよけます。
それにしても、エキゾチック。
明日からの散策が楽しみです。
私「火葬場というのは、夜もやっているものなのか?」
男「当たり前だ。人は、いつでも死ぬんだから。」
あの塔の向こう側から煙が上がっています。
いままさに、人が焼かれているところのようです。
神妙な顔をして見つめていると、別の男が現れ、火葬場案内するよ、見たいな事を言う。
私「要らない。」
別の男「why?」
私「だって、カネがいるんだろ?」
別の男「カネは要らない。あなたをハッピーにしたい。」
私「だから、それが嫌なんだ。I hate it!」
面倒くさくなって、そろそろホテルに戻ることにしました。
それにしても、夜の火葬場、迫力ものでした。
また、昼の明るいときにでも来るとします。
すぐに、ガンガーのガートに出ました。
SITAゲストハウスは、この少し上流にあります。
夜のガンジス河岸で「詐欺師」とひと悶着
夜のガンジス川も、妖気がただよう迫力もの。
立ち止まって、しばらく見入っていると、男が口を開きました。
「Are you happy? プリーズ、トウサウザン。」(そらきたぞ・・・)
「何が2,000ルピーだ!カネは要らないって約束したじゃないか!」
「私は、あなたを幸せにした。その分のカネをください。」
「冗談じゃない!幸せなんかじゃない!」
「あなたはウソついてる。幸せそうな顔をしていた。あなたはハッピーに違いない。ウソをつくのか。」
「詐欺師」にうそつき呼ばわりされ、私もカチンときて、
You’re a liar!
と、思いっきり怒鳴りつけて、もともと払うつもりだった300ルピーのうち、100ルピー紙幣だけを渡して、その場を離れました。
こうなることは、はじめからわかってましたが、あらためて食らうと、ほんと疲れます。
あれだけ、カネはいらないな?と確認しておいて、コレですから。
正直、コイツがいなかったら、はじめて訪れたバラナシの夜の街なんて、歩き回れません。
だから、はじめから300ルピーぐらいだったら払うつもりでした。
それを、2,000ルピーとふっかけてくるなんて、さすがの私もアタマにきました。
日本人は、固定相場が好き。
後から値段を吊り上げられるのが嫌い。というより慣れてない。
一方、インド人(アラブ人なども)は、観光客の可処分所得に応じて、累進課税のように請求しようとしてくる。
だから、貧乏人などには、逆に恵んでやったりもするんだろうけど。
この考え方、ほんとに疲れる・・・
こっちだって、タダで案内しろと言っているわけではない。案内料を払うつもりでいるんだから、最初に決めろってんだ・・
ホテルを出て、1時間が経過していました。現在23時。
こんな時間、ガンガー沿いを歩いている観光客なんていません。
詐欺師は、すでに消えうせ、私一人。ちょっと、やばかったかな・・
与太者が襲ってこないとも限らないし、足早にホテルへ急ぎます。
ガート沿いのホテルなので、さがすのに便利だったのは幸い。
SITAゲストハウスの看板を見つけました。
よかった、ちゃんと戻って来れました。
部屋に入り、くつろぎます。
「詐欺師」と、かるい悶着がありましたが、完全に想定の範囲内。
ハッピーという言葉を使えば、いくらでもカネを出すと思ってやがるんだから、まったく(笑)
でも、これで、かえってよかった。
このインドにおいて、無償の親切行為など断じてないという、あたりまえのことがわかりました。
それよりも、エキゾチックなバラナシの旧市街。
明日からのバラナシ散策が楽しみでしかたありません。
それにしても、この部屋、シャワーの水は漏れてるわ、洗面所の水は出ないわ、欠陥だらけ。
これで、3,000円もとるの?
でも、トイレがふつうの水洗トイレであることに安堵。
昨夜、日本を出て、本日中にデリーのメイン・バザールを瞥見。
そして、夜のバラナシを軽く歩いて、現在。
さすがに、少し疲れました(^^)v
ベッドに転がって爆睡です。