エルサルバドルのビットコイン法定通貨化&都市構想に旅好き投資家も驚いた話

私の好きなものは、旅と投資。

両者を結びつけるものは特になさそうにみえるが、強いていうならば、旅と投資に共通するワードは「冒険」ということになる。

私は、奴隷的あるいは暴力的立場から隔離された状態で、コロンブスやマゼランの航海に立ち会ってみたいと考える人間。

カネになる香辛料を求めての冒険。

この航海を、旅と考える乗組員がどれほどいたかどうかわからないが、海図も何もない海への航海が「冒険」でないわけがない。

「ビットコイン」を法定通貨としたエルサルバドル

ところで、先日、驚くべきニュースが。

中南米エルサルバドルが、なんと「ビットコイン」を法定通貨にしたとのこと。

ちなみに、エルサルバドルとは、ここ。

出典:外務省海外安全ホームページより

この、九州の約半分、そして人口約650万人の小国が、なぜ「ビットコイン」を法定通貨にしたのか。

その関心が冷めやらぬうちに、エルサルバドルは、なんと「ビットコインシティ」なる構想を発表したので、一個人投資家として大いに注目しているところである。

そもそもビットコインとは、という点を簡単に解説しておく。

急騰急落を繰り返し、名前くらいは社会人なら誰でも知るほどになった仮想通貨(暗号資産)の一つであるが、その仕組みを完全に理解している人は限られるかもしれない。

私とて、そのプログラムを詳細に解説できるわけではないが、思い切って簡単に言えば、中央サーバを持たないブロックチェーンと呼ばれる分散型台帳を使っているところがポイント。

多数の参加者が参加することがデータの改竄を困難にさせ、運営が成り立っているという目からウロコのようなシステムであるが、「マイナー」と呼ばれる投資家がパソコンを貸し出すことでデータの整合性が維持される仕組み。

もちろん、この「マイナー」は、タダで貸し出すわけもなく、マイニング(コインの発掘)で一定のコインをもらえるので貸し出している。

すなわち「マイナー」は、マイニングに必要な電力消費(コスト)より、発掘されたビットコイン(リターン)のほうが高ければ、正真正銘の不労所得となるわけで、世界中の「その道のプロ」が参加し、日夜コインの発掘に励んでいるらしい。

PCを動かす電力使用量を極力下げるため、中国の山奥にこもって、多数のマシンをフルに稼働させているという話も聞いたことがあるが、一般ユーザとして想像するのは、このビットコインを取引所で売買する風景だろう。

これはまさに、ドルと円といった通貨を外国為替市場で売買するのと同じ理屈であるが、自国通貨をビットコインにしてしまったのがエルサルバドルである。

 

この出来事について、私は二つの観点から興味を持っている。

1点目は、現代国家が通貨の信用という権威を放棄するとどうなるのかということ。

通貨とは結局、かかわる人々の「信用」によって成り立つ。

この「信用」とは、1万円のモノを買う際に、1万円札を差し出し、当たり前のように受け取ってくれることをいう。

日本円のように「信用度MAX」の通貨は、極端な話、一万円のモノを売って受け取った紙幣が偽札だったとして、それに誰も気づかず、まわり巡って取引されていけば、誰も不幸にならない。

逆にいえば、通貨の信用って、そのくらい経済社会では重要なのである。

日本円が「信用度MAX」という言葉に疑問を呈する方もいらっしゃると思いますが、これだけ紙幣を刷り続けても極端な円安にならず、マイナス金利で国債を発行できているのだから、今のところ日本円の国際市場での地位は揺るいでいない。(実効為替レートの低下は別として)

 

ところで、一般的に言って、新興国の通貨は信用力が弱い。

新興国中銀の政策金利が先進国より高めなのは、インフレをおさえるのが主目的であるが、金利を高めに設定しないと、資金を呼び込めないという事情もある。

実際に私も、新興国を訪れて初めて手にする同国の通貨。

それを最初に使用する際は、「ほんとに使えるのかな」とオモチャのように見えるし、多めに手に入れてしまった「ミャンマーチャット」は再両替しそびれて、今でも机の中にある。

この「ミャンマーチャット」は、香港でもバンコクでも、受け付けてくれなかった。

「受け取りたくない」、すなわち「信用」がないのである。

それでも、一国の中銀は、国の経済を安定成長させていく義務があり、金利や通貨流通量をコントロールして、なんとか国民の生活の安定を目指している。

人間が、価値あるものを身体に取り込まないと生き抜いていけない以上、その価値を形にした通貨の発行というのは、まさに国の屋台骨のようなものだ。

その通貨をビットコインにしてしまったら、金利も流通量もコントロールできない。

厳密にいえば、ビットコインを米ドルに換金できるが、米ドルのコントロールができないので結局は同じである。

通貨の安定というのは、それほど未成熟な市場では困難なことなのであるが、未成熟な市場では、一般市民が通貨にたどり着くのも困難なことであるらしい。

これは、「金融包摂」という言葉で語られ、貧困などにより銀行口座にアクセスできず社会的サービスを受けられない層を、デジタル化により取りこぼさないようにする施策である。

こういった国の国民は、情報収集手段、あるいは親族などとの連絡を行うためにスマホが必須アイテムになっている。

つまり、そのスマホを通じて、本人であることの証明や、少額の社会福祉などを届けていく。そのほうが、中銀が金融政策を行うより、数倍も効率がいいとされている。

エルサルバドルの施策は、実は、すごい決断なのだ。

時価総額100兆円を超す「ビットコイン」

ビットコインは、今こうしている間にも、世界中で取引が行われている。

その時価総額は、なんと円換算で100兆円を超えている。(2021年11月現在)

日本国の国家予算が約100兆円。

アップルやマイクロソフトの株式時価総額が約300兆円であることを考えると、とてつもない数字と言っていいだろう。

それに対し、エルサルバドルのGDPは、約3兆円にも満たない(2020年)。

エルサルバドルとしては、苦渋の決断だったのかもしれないが、そのくらい、ビットコインとの「信用」という裏付けに開きがあるとなると、「金融政策」という国家の権威を放棄しても、見返りがあるのかもしれない。

 

ところで、もう一つの興味は、中国の台頭に対する新興各国の対応である。

中国が、ビッグマネーをアフリカ諸国や太平洋の島々などに投資しているのは周知の事実。

投資といえば聞こえはいいが、返せなくなったら、投資物件などは担保のかてにとられるのだから、債務国からしたらけっこう命懸けである。

台湾と断行して中国と国交を樹立している国が後を立たないが、それは本心なのだろうか?

調べてみると、中南米諸国の貿易は2018年以降、メキシコを除き中国が最大の相手国となっている。

エルサルバドルはどうかというと、なんと2018年に台湾と国交を断交し、中国に傾斜しはじめた。

中国共産党に対して債務を負うぐらいなら、ビットコインでカネを集められれば、という考え方ではなさそうなので、少々がっかりだ。

私は中国は嫌いではなく、むしろ中国の歴史観は大好きで、いままで幾度も訪れているが、中国共産党の一方通行の権力には恐怖を感じる。

 

ビットコインに話を戻すが、

ビットコインが、さらに上値を目指す展開になったら?

ビットコインの信用がバブルのようにはじけとんだら?

そのとき、エルサルバドルはどうなるのか。

各国が異次元の金融緩和を続けるマーケットを見ていると、エルサルバドルの選択は正しいのではないかとも思えてくる。

コロナが治まり、私が中南米諸国を歩く頃、入国審査官がみなアジア系の顔をしていたらと思うと興醒めするが、法定通貨と肩を並べるまでに成長したビットコイン。

数年後、この仮想通貨がどのような主導権を握っているのか、興味が尽きない。