対馬を南北につなぐ国道382号線。
北の比田勝から南下してくると、厳原の町に入って、途中で県道24号線に切り替わり、さらに対馬南部の豆酘(つつ)を目指す。
国道382号線はどうなってるのかというと、その切れた地点から海を渡り、壱岐を通って佐賀県唐津に至る海上国道だ。
その国道382号線が県道24号線に変わる交差点が「八幡宮神社前」で、文字通り八幡宮神社はその目の前にたっている。
神功皇后の三韓征伐祭祀「八幡宮神社」
この対馬の大通りに沿う、いっけん何の変哲もない神社。
ガイドブックにも載ってません(少なくとも私が持ってきた「まっぷる長崎」には、一行も出ていない)が、対馬では最も大きい神社です。
ところが、このみためふつうの神社の由緒がスゴイ。
祭神はなんと、「神功皇后」「仲哀天皇」「応神天皇」「武内宿禰」と、古事記中巻のキャストが勢ぞろいである。
案内板にも、しっかりと記されている「三韓征伐」。
韓国人が聞いたら発狂しそうな四字熟語。コロナ前は韓国人の観光客も多かったそうだが・・
史実はどうであれ、神功皇后がお腹に応神天皇を身ごもりながらも、三韓の征伐を果たし、帰途に異国の侵入からこの地を守るよう祈りを捧げた場所がここである。
そのような予備知識をもって、あらためて眺めると、一気に風格を帯びてみえてくるから不思議だ。
菊の紋章をたずさえた馬の像も立派に見える。
対馬という土地は、いつの時代も、日本の防人としての役目を担っていたということを思い出させてくれる八幡宮神社です。
須佐男命(スサノオ)を祀る宇努刀(うのと)神社
八幡宮神社は、本殿だけでなく、となりに2つの神社が並んで鎮座しています。
そのひとつが宇努刀(うのと)神社。
宇努刀なんて、字面がとてもカッコいいだけでなく、祭神がなんと三貴子のひとり「須佐男命(スサノオ)」とは。
古事記中巻のスーパーキャスト勢ぞろいかと思いきや、アマテラスの弟までもが登場。
さすがに、イザナキとイザナミの国生みによって生まれた島対馬です。
ちなみに、対馬に渡る前に立ち寄ってきた福岡・香椎宮。
香椎宮こそが、神功皇后と仲哀天皇を祀っており、神功皇后はスサノオによって生み出された「住吉三神」に憑依され、三韓征伐を命じられている。
ざっと略すると、そんな関係です。
主祭神「安徳天皇」の天神神社
宇努刀神社の隣にたっている、2つめの神社が天神神社。
菅原道真とともに祀られているのが「安徳天皇」。
どちらも、九州にゆかりがあります。
ただ案内板の記述を読むと、安徳天皇は筑紫に逃げて、対馬に下ったとある。
壇ノ浦の戦いで、平時子とともに入水した8歳の安徳天皇が、対馬に下ったとはすごいストーリーではあるが、なにか伏線でもあるのだろうか。
ストーリーはともかく、年季の入った柱に対し、最近入れ替えたと思われるしめ縄が対照的です。
キリシタン小西マリアを祀る今宮 若宮神社
建物的には、今宮 若宮神社は固有の建築物ではなく、天神神社に合祭されています。
つまり、一つの社に2つの由来を持つ祭神が祀られているということです。
天神神社が「菅原道真」と「安徳天皇」であったのに対し、今宮 若宮神社は祭神が「小西マリア」。
「小西マリア」とは御存じですか?
私のよくプレイするゲーム「太閤立志伝Ⅴ」にも登場する?小西行長の娘で、宗義智に嫁いだキリスト教徒です。
簡単に説明すると、
小西行長は、もともとは堺の商人の生まれであったが、その後秀吉直轄の武士となる。
九州平定の際の活躍が認められ、加藤清正とともに九州の大名を統治するまでにいたり、その後の朝鮮出兵(文禄・慶長の役)では先陣を切る活躍をみせる。
しかしながら、関ケ原の戦いで西軍についていたため斬首された。
西軍についた理由はいろいろあるが、行長がかつて仕えていた宇喜多家に対する恩義も理由のひとつらしい。
ところで、宗義智に嫁いだ小西マリアは、まぎれもない政略結婚だ。
元寇の後、朝鮮との関係を修復し、大陸との交易によって島を支えてきた宗氏である。
宗氏は当然、朝鮮出兵には反対だっただろう。
マリアは、朝鮮出兵の際の行長軍を、どんな思いでサポートしたのだろうか。
その後、関ケ原の戦いにより、マリアは逆賊の娘となってしまった。
政略結婚とはいえ愛し合っていた宗義智とマリアは別れざるをえなくなり、失意のままマリアは九州へ渡り長崎で没したという。
キリスト教徒を祀る神社というのが、ほかにあるのかどうか知らないが、マリアの無念を鎮めるために創建されたのが今宮・若宮神社である。
八幡宮神社は、神功皇后の時代から、江戸時代まで、ゆうに1,000年をこえる歴史がつまった、いわば対馬ヒストリーともいえる聖地である。
ガイドブックには載ってないけど、静かな境内を歩き、当時をしのんでみるのも、歴史観ある土地の楽しみだ。
冒頭でも述べた通り、この八幡宮神社は、厳原のメインロード沿い。
簡単に徒歩で来れるので、対馬観光の際は、立ち寄ることをお勧めします。