さて、今回のシルクロードの旅、最後の訪問地ホータンです。
ホータンは、新疆ウイグル自治区のひなびた集落・・・なんていう数十年前の予備知識だけで、やって来ました。
当然、なにかハプニングがあるなどと考えずに、多数のウイグル人たちと一緒に、ふつうに駅の外に出ました。
ホータン駅検問所の大行列
うわ、何なんだ、これは??
駅から出る人を、警察が一人一人チェックしています。
みんな、中国版マイナンバーカードのようなものをしっかりと携えています。
しかし、見てると、行列はほとんど進みません。1人に1分ぐらいかけ、特殊なケース(何が特殊なのかわかりませんが)5、6分かかる場合も。
ホータンは終点ですから、下車客も多い。500人ぐらいはいるでしょう。
ということは、行列の最後は500分後!?
と考えても、おかしくないくらい、おかしなウイグル人に対する監視の仕方です。
私のような外国人が監視されるのは、まだわかる。
でも、一応同胞のウイグル人をこれほどまで管理しているというのは、「強制収用」や「再教育施設」といったうわさも、あながち眉唾ではないな、という気もしてきます。
行列は、どんどん長くなり、最後尾は駅の中にまで入ってしまいました。
みなさん、長旅で疲れていることと思います。はやく、自宅に帰りたいでしょうに。
労働節で出かけなければよかった、と思ってるかな。
でも、ウイグル人は、電話やメールもすべて監視されているらしい。
外国人専用の検問所
さて、私はどうすればいいのか。
実は、行列は2つあって、私のような外国人は、どこに行けばいいのか、皆目検討がつきません。
待つだけ待って、手続きは違う場所だよ、とやられたら悲劇だし。
私は、思い切って、行列の先頭のところにいる警官にパスポートを見せ、自分は外国人だがどうすればいい、と訴えました。
すると、こっちだ、と指示された場所は、駅前広場の外れの警察の詰め所。
外国人は、別に管理されるようです。
私を含めて、この列車を降りた外国人は4人。
ちょっと会話すると、コロンビア人、イギリス人、あとアラブ系の人。
外国人同士の会話は禁止されていないらしい。
それにしても、この旅で、久しぶりに目にした西洋人です。
手続きは、パスポートをコピーされ、その余白に電話番号とメールアドレス。
そして、顔写真を撮られるといった、いつもの検問所のパターン。
20分くらいで終わりました。
その間、ウイグル人の行列は、ほとんど動いていません。絶望的な気分だろうな・・・
警官は親切で、タクシー乗り場に案内してくれ、料金も払ってくれました!?
これが、心からの善意なのか、外国人を待たせてしまう規則に対する償いのつもりか、あるいは政府から、少しでも外国人の心象を悪くするな、という命令が出ているのか、わかりませんが、かたわらで、いまも最後尾が見えないほどの行列をなしているウイグル人との対応の格差に愕然とします。
タクシーは、さっきのコロンビア人とイギリス人の2人組との相乗り。
軽く会話をしましたが、やはり、いろんな出来事に驚いているとのこと。
私が、「ウイグル イズ ワンダーランド」と言ったら、笑ってました。
ホテルに登場する入国管理官
今夜泊まる「西域大酒店」。1泊3,500円の中級ホテルです。
チェックイン手続き自体は、パスポートのコピーをとられ、100元のデポジットを収め、という一般的な中国のホテルのチェックイン手続きと同様。スタッフの愛想もよかったです。
そして、案内された部屋に落ち着き、旅装を解きはじめたところで、また異変が。
ドアがノックされ、ドアを開けると、さっきのスタッフが立っていました。
そして、フロントに来てくれ、と。
フロントに下りるエレベータの中で、「ワットハプン?」とスタッフに聞いても、手を振って「ノープロブレム」と言うだけ。
フロントまで行くと、とても「ノープロブレム」とは言えない状況が待っていました。
警官が10人ほど立っています。男女半々くらい。
しかし、全員ウイグル人の顔つきです。
異様な雰囲気の中、一般人であることがほぼ確実なホテルスタッフが、ふつうに執務を続けていることが、私にとっては幸い。
すなわち、異様に思えるこの状況は、なにかの正規な手続きであって、そこから大きく外れていないからこそ、ホテルのスタッフも平然としているのだと。
これを、新疆ウイグル自治区に入ったとたんにやられたら、間違いなく失神しちゃうでしょうが(実際、トルファン北駅では失神しかけました笑)、ここは新疆ウイグル自治区、度重なる検問や尋問で、私にもある程度免疫ができていました。
でも、今回は、それでも警官の数が多く、しかも検問所などではなくホテルで呼び出しを食らった分だけ、私も動揺しています。
質問係の女性警官が、私にスマホを見せました。
そこには日本語で「あなたはウイグル語が話せますか?」「話せない。」と返すと、アプリで「我々は入国管理官です。質問に協力してください。」と言ってきました。
そこからの質問は、
- 「ホータンに来た目的は?」
- 「訪問は何度目ですか?」
- 「ホータンに知り合いはいますか?」
- 「ホータンの滞在日数は?」
- 「ホータンへはどうやって来ました?」
- 「今日の予定は?」
- 「明日の予定は?」
- 「いつ日本に帰るんですか?」
- 「仕事は何をやっていますか」
- 「メディア関係に知り合いはいますか?」・・・・
記録という記録をこれでもかというぐらい取られる尋問
質問は、これだけでなく、延々と続きました。
驚いたのは、この質問の間、小柄な女性警官が、私のことを四方八方からパシャパシャと撮影していること。
顔だけでなく全身を、それも360度四方から。しかも、警察の鑑識が持つような一眼レフで。
質問で違和感を感じたのは、「新疆ウイグル」ではなく「ホータン」が主語になっていたこと。
今までトルファンでもカシュガルでも、あるいは列車の中でも、質問の主語は「新疆ウイグルに知り合いは・・・」だったのが、「ホータンに・・」なっている。
それに、「職業」を聞かれるのは毎度のことですが、「メディア関係者に知り合いがいるか」と聞かれたのははじめて。
それに、何度も「記者ではないですね。」と念を押されている。
取材をされることに警戒しているのか、あるいは、メディア関係者だったら、行動が制約されるのか・・・
「職業」については、本当にしつこく、「勤め先の名刺を持ってないか?」と聞かれ、実は財布の中に数枚持っていたんですが、それはさすがに出しませんでした。(財布の中を検査されたらどうしようと、少し不安でしたが・・)
滞在日数も警戒していたように感じました。明日の飛行機でウルムチに飛ぶ、と答え、Eチケットを見せると、一様にほっとした雰囲気がありましたから。
このことから察するに、なんらかの事情から、中国はここ「ホータン」を特別視している。
それが、経済的なことなのか、軍事的なことなのか、一帯一路構想に関することなのか、あるいは、噂されているウイグル人への弾圧に関してなのか、理由はわからない。
しかし、「ホータン」を、外国人が一人で自由に歩き、様々なものを見られる。こうしたことをひどく警戒している、これは間違いないらしい。
今、私は1人である。
カシュガルからカラクリ湖へ行く途中の検問も、おそらくタクシーで行ったら検問を通れなかっただろう。
政府公認の運転手がついていたから、「何かあったらお前も連帯責任だぞ。」と行動が許可されていたのかもしれない。
この中国政府の方針に、現地の警察はどう考えているのか。
私が「明日にはホータンを離れる」と言ったときの、彼らの安堵の表情は、滞在日数が増えるほど、私を監視しなくてはならないし、私の行動のウラも取らなくてはならない。
すなわち、自分たちの仕事が増える、そして、その仕事にさほど大きな意味を持っていない、と彼ら自信がそう思っている証のような気もしました。
最後に、アプリ上に「協力ありがとうございました。」と表示させて、警官(入国管理官?)たちは帰っていきました。
職務質問は延々と続いたけど、彼らに、私を非人道的に扱う意志はないことを悟り、途中からは、いわゆるヒアリングを楽しめました。ルールがあるから、仕方なくやってるんだよ。
私は、この時点で、この程度に考えていました。
実際に町の中を歩くまでは・・