あるメディアによると、「ブログはもう終わったコンテンツ」なのだという。
たしかに、大手プロバイダーのブログサービスが次々と終了している。
そこにアップされていた一市民の発信――その多くは、静かに、そして確実に消えていく。
正直、それがとても寂しい。
ブロガーとしての私自身も、数年前にその危うさを感じ、自前でサーバーを契約し、ドメインを取得して、無料のライブドアブログから乗り換えた一人だ。

ブログは、マネタイズという観点から見れば、たしかに「終わったコンテンツ」なのだろう。
アクセス数が一定以上ないと、運営側にとって無料で展開するビジネスメリットは少ない。
私のように、サーバー代を自己負担し、広告も貼らずに発信している人間のほうが、よほど酔狂に見えるかもしれない。

そして時代は、文字よりも映像を好む方向へと移った。
旅ブログの活字を追うよりも、旅系ユーチューバーの映像のほうが華やかで、わかりやすい。
ただ、話が少しそれるが、動画の制作・編集というのは想像以上に大変だ。
私も一度試みたことがあるが、旅を楽しむために来たのか、映像を撮るために来たのか、わからなくなってしまい、あっさりあきらめた。
いまは、動画を撮るとしてもメモ代わり。
人間の宿命ともいえる「薄れゆく記憶」を補うために、YouTubeにささやかに動画を残して、自分自身の記憶装置として使っている。

さて、その「終わったコンテンツ」と呼ばれるブログだが、消えていく姿をただ見送る無力感を覚えながらも、私は「旅行記」ブログの一ファンとして、毎日のように読者になっている。
無料ブログには、旅に限らず、日々の思いや日常の一コマを軽い気持ちでつづった人々のつぶやきがが数多く散りばめられていた。
たとえ途中で筆が止まってしまったブログも、ネットの片隅に野良ブログとして残り続ける。
そうした偶然の出会いは、読む側にとっても楽しい。
デジタルタトゥーならぬ「デジタルリメイン」とでも呼びたいが、どうだろうか。

飾らずに思いをつづった文章には、マネタイズを意識した記事にはない臨場感がある。
書き手の性格や癖までもが、行間からにじみ出てくるように感じる。
とくに旅ブログの場合、「旅行記」と「旅行ガイド」では臨場感がまるで違う。
たしかに「旅行ガイド」は情報量が豊富で整っており、私もお世話になることもあるが、情報に重きを置くサイトは「鮮度」が命。
情報が変わるたびに更新するそれは、もはやブログではなくWEB版ガイドブック。
それなら公式サイトを見たほうが正確だし、ましてや今や生成AIが案内してくれる時代である。
その点、「旅行記」ブログは、日記であり、記録であり、心の軌跡そのものだ。
ときには失敗談やアクシデントまでも赤裸々に記されている。
そうした文章の中に、自分と似た感情や行動を見つけると、共感というか刺さるものがある。
それが、旅ブログという「人間の日常の記録」の魅力だと思う。

「世界一周ブログ」をいくつも読んでいるさなか、こんなこともあった。
私の愛読ブログ、その中のひとつ、就職前に世界一周に挑んだ大学生のブログを、更新のたびに追いかけていた。
フィリピンへの渡航を皮切りに、西回りで世界各国を歩いていく臨場感たっぷりのリアルタイムブログ。
ところが、その学生はコロンビアのメデジンで強盗に遭い、命を落としてしまった。
ブログの更新が途絶えたとき、「どうしたのだろう」と思っていたが、読者のコメントに(おそらく)父親が返答し、事情がわかった。
画面の向こうにいた旅人の死に、私は同伴者を失ったような衝撃を受け、深く悲しくなった。
本件は一部のメディアも報じていたが、内容には事実と異なる部分が多く、あらためて「現場を生きた記録」と「報道記事」との間にある温度差を思い知ったものである。

人はなぜブログを書くのか。なぜ自らをさらすのか。
答えは無数にあるだろう。
私にとってブログとは、「人生という制約の中での決断の集積」だと思う。
たとえば旅ブログなら、旅には必ず目的があり、制約の中でスケジュールを立て、実行している。
その旅が日帰りでも、2泊3日でも、すべては書き手自身の環境と意志のもとで選び抜いた「決断」の結果だ。
そして人間は、何かを決断する瞬間にこそ、生きている実感――臨場感――を得る生き物なのだと、私は多くの旅ブログから教えられた。
こうした感じ方は、私が制約にまみれたサラリーマンだからかもしれない。
仕事における「決断」は、組織のためのものであり、自分のためではない。
だからこそ、与えられた年間約5,500時間の自由な時間を、どう決断して生きるかを意識したい。(この数字は、1年8,760時間から労働や通勤などに支配される約3,200時間を差し引いたものだ。)

そんな、人生の「決断」がつづられた無料ブログが次々と消えていくのは、本当に寂しい。
ブックマークしているお気に入りのブログは、せめてPDFにして手元に残しておきたいと思っている。