世界貿易の日常 パナマ運河ミラフローレス閘門のショータイム【パナマ旅行記 #9】

大西洋と太平洋を結ぶパナマ運河。

その全長約80キロメートルに及ぶ水路は、人類史上最大級の土木事業として、今日も世界の物流を支える生命線として稼働し続けている。

この壮大な運河を象徴するのが、船舶の通行を可能にする閘門(こうもん)だ。

大西洋側のガトゥン閘門と、太平洋側のミラフローレス閘門は、その歴史と技術の結晶であり、訪れる人々に運河の役割とその壮大さを語りかけてくれる。

というわけで、昨日、プライベートツアーでガトゥン閘門を見学してきましたが、やはり太平洋側のミラフローレス閘門も拝見しないと失礼に当たると考え、行ってきました。

ちなみにガトゥン閘門と違ってミラフローレス閘門は、パナマシティの市街からバスやタクシー、あるいはUberで簡単に行けます。

このように、アルブロックターミナルからならバスで30分ほどです。

大西洋側のガトゥン閘門の様子はこちら

動画での様子はこちら

観光施設となっているミラフローレス閘門

2024年8月7日(水)。

早朝から午前中にかけて、パナマシティ旧市街の歴史地区を散策した私は、午後になってミラフローレス閘門を訪れました。

チケット代は17.22ドル。

しかしなぜか、チケットが2分割されている。

たぶん、どちらかがシアターでの映画鑑賞。

この映画は3Dで45分とのことだけど、開始時間までけっこう待ったのと、現物が見られれば満足なので、もったいなかったけど割愛。

だれかに売れなかったかな^ ^

さて、映画なんて見なくても、ミラフローレス閘門は、運河そのものが劇場になっています。

その劇場に上がって行くと、

平日なのにこの盛況ぶり。

立錐の余地もないほどでしたが、なんとか、なかば強引に身体を割り込ませます。

目の前に、それこそ手にとるような近さに迫る水の回廊。

これが、地球の大洋2つを繋いでいるのかと思うと、やっぱり感動する。

パナマ運河の建設が始まったのは19世紀末。

計画を立案したのは、スエズ運河も開拓したフランスの技術者フェルディナンド・デ・レセップス氏。

工事は難航し、さらに熱帯病や資金不足にもみまわれ失敗に終わるも、1904年にアメリカが建設を引き継ぎ、1914年にようやく完成。

ミラフローレス閘門は太平洋側の入口として、運河を通る船舶の姿を間近に見ることができる観光名所となっています。

パナマ運河は、21世紀に入ると世界的な物流量の増加に対応する必要が生じ、2007年に運河拡張計画が始動し、2016年に新たな閘門システムが完成。

したがって、いま眺めている運河は、この拡張工事により幅が広がり、巨大船舶「ポスト・パナマックス」の通行が可能になった新しい運河である。

パナマ運河の通行量をみていれば、世界経済の動向を測れるのかもしれない。

間近で見るミラフローレス閘門のショータイム

さて、待つこともなく、巨大な船が姿を現しました。

世界中の船が踵を接して待っているのだから、すぐに登場するのはいわば当たり前。

それにしてもデカい。すごい迫力です。

船首にあるTALISMANとは「お守り」のことかな。

そしてサイドには、Wallenius Wilhelmsenとあるので、これはストックホルムに本社のある運送会社。

はるばる大西洋を横断してきたんだね。

船の動力は停止しているのかわからないけど、船の進路を正確に制御する機関車がけん引しています。

ガトゥン閘門ではタグボートが引っ張っていたけど、こちらはミュールと呼ばれる電気機関車。

1台あたりの出力は290馬力とスポーツカー並み。

まさに縁の下の力持ち。

乗組員も顔を出します。

船乗りの方にとっても、パナマ運河通過は、楽しいイベントなのでしょうか。

さて、閘門に差し掛かりました。

船舶を標高約26メートルのガトゥン湖へと昇降させる「閘門」。

大西洋側のガトゥン閘門が2段階の昇降であるのに対し、こちらミラフローレス閘門は3段階。

要するに、湖面との水位の差が大きい。

みていると、みるみるうちに水位が下がって行く。

正直、これほど大量の水をどうやって排出しているのか、と疑問が湧くほどの速さである。

しかも、太平洋側は潮位の変動が激しく、それに対応するためミラフローレス閘門の構造は複雑らしい。

と、ここまで来たら、当然通過する瞬間までみれるものと思っていたところ、スタッフが現れ、退場するようにという指示。

多くの観光客をまわすための時間制限かな・・・

それでも素晴らしかったミラフローレンス閘門のショータイム。

観光客は、ほとんどパナマ国民なのだろうか。

ふと思って、調べてみると、圧倒的に外国人観光客が占めているようだ。

むしろ、パナマ国民としての訪問は、学校の社会科見学など観光より国家としての歴史を学ぶ場であるらしい。

蛇足ではあるけれど、私がパナマ運河を訪れた感想。

私が訪れた2024年夏、アメリカでは次期大統領を決める党全国大会の真っ最中だった。

ある候補者が「パナマ運河の支配権を取り戻す」と訴えていたのは、明らかに対中国を意識しての発言だろう。

しかし、目の前を行き交う巨大な船舶を眺めていると、わずか50メートル足らずの水の回廊が、世界貿易の行方を左右するほどの決定権を握っていることに改めて驚かされる。

そんな世界経済の生命線とも言える場所が、厳重に機密管理されるどころか、観光施設として誰の目にも開かれている。

その光景に、どこか不思議な感覚を覚えずにはいられなかった。