【晩秋の京都一人旅#15】こじんまりとした世界遺産「宇治上神社」を歩く

「世界遺産」とは、全人類共通の財産。

すなわち、国境や民族、さらに時代や宗教観などの違いはあれど、どんな価値観をもつ人でも、同じように「素晴らしい」と感じる建造物や遺跡、自然などのことを指します。

 

これを、世界遺産委員会事務局のユネスコでは「顕著な普遍的価値」と表現しています。

 

そして、「世界遺産」として登録されるまでには、世界遺産委員会にて、当然のごとく厳しい審議が行われたのち決定されます。

 

したがって、「世界遺産」の称号をもつ遺跡や建造物は、ひと目見る者に、後光が差してるかのごとく、威圧感をもって迎え入れてくれるわけです。

 

ところが、京都・宇治の世界遺産「宇治上神社」は、その他大勢の世界遺産とは一味違います。

 

少なくとも、私の今までの旅において「世界遺産」と向かい合った感触としては、はじめて感じる異色なものでした。

宇治上神社とは

醍醐天皇が「平等院」を訪れた折りに、「離宮明神」の神位を与えた「平等院」の鎮守社として長く崇拝をされてきた神社。

創建の年は定かではないが、現存する日本最古の神社建築である。

その平安時代に建築された本殿と、鎌倉時代に建築された拝殿。この2つが国宝であり、1994年に世界遺産登録された。

こじんまりとした門と境内に驚き

さて、「平等院」の見学を早々に終えた私は、宇治川を渡り、「宇治上神社」の入り口にやって来ました。

参道の手前にそびえる鳥居は立派です。

「さすが世界遺産の神社」と思いながら、参道に足を踏み入れました。

参道は、終わりかけではありますが、紅葉が古社を彩っていました。

いかにも晩秋の京都という感じがして、満足しながら門をくぐります。

ところが、門をくぐっても、ただのふつうの神社の境内に入ったのと同じ。

 

先入観と固定観念でまったく申し訳ないわけなんですが、金閣寺や下鴨神社に入ったときの様子を想像していた私は、正直驚きました。

 

近くに「宇治神社」というのもあるし、最初は「神社を間違えたかな・・?」と思ったほど。

そもそも、入場料無料の「世界遺産」なんて聞いたことない・・

「世界遺産」に、華々しさとか煌びやかさなどを想像するなど、私自身の経験不足そのものを露呈しているわけですが、「The世界遺産!」のような建物も雰囲気もなく、近所の護国神社の境内を散歩しているかのよう・・・

こじんまりとした門の傍らの燈籠は苔をかぶって貫禄はありますが。

ところが、地元の学生さんが作ったかのような説明書きを拝見し、ここがまぎれもなく「宇治上神社」であると認識。

その説明書きに沿って、こじんまりとした世界遺産を散策するとします。

鎌倉時代に建立された国宝・拝殿

まず、境内の真正面にあるのが拝殿。

歴史資料がないため、「年輪年代測定法」により1215年頃に建立されたと推測される国宝です。

平安時代の貴族の住宅様式「寝殿造」が取り入れられた、拝殿としては珍しい形式。

「説明書き」には、「拝殿は左右対称ではありませんよ。わかりますか?」とあります。

言われてよく見れば、たしかに左側の部屋が一つ多い。というか、柱一つ分広いです。

現存する最古の神社建築「宇治上神社・本殿」

「宇治上神社」の「世界文化遺産指定区域」は、拝殿や本殿だけでなく、「後ろの木々の景観も含め境内地・建物すべて」となっています。

 

そして、この本殿が、まさに世界遺産登録の要因の一つなのではないでしょうか。

拝殿のすぐ裏手にある本殿は、建立されたのが1060年と推測される国内に現存する最古の神社建築です。

 

1000年近くも、形を変えずに残されている建物なんですね。

背後の樹木も含め、神々しくみえてきました。

ちなみに、本殿も、左右非対称だそうです。(これは、あとになって気づきました)

目の細かい格子の向こう側には、応神天皇、仁徳天皇、菟道稚郎子(うじのわきいらつこ)が祀られています。

夕暮れになり、折りしも灯りの灯った末社。

苔で覆われた貫禄のある末社の屋根も、本殿などと同じ檜皮葺によるものです。

拝殿前に盛られた「清め砂」

拝殿前の砂で盛られた円錐形の小さな二つの山は「清め砂」といいます。

「宇治上神社」では、八朔際(9月1日)に氏子さんたちによって奉納され、お清め用の砂として1年間盛られ続けられるそうです。

「宇治上神社」の「清め砂」は、まさに境内を清めるための砂で、正月やお祭りの際に実際に使われるそうで、「神が降りられる依代」を表す「上賀茂神社」などの砂とは、一味違いますね。

宇治七名水のひとつに数えられる桐原水

宇治には、7ヶ所の湧き水「宇治七名水」がありましたが、現在唯一残っているのが「宇治上神社」の「桐原水」(きりはらすい)のみです。

実際、手を清めてみると、冷たく神々しさを感じるのは、気持ちの問題ですね。

今なお、こんこんとわきいずる湧き水。

飲めないようですが、沸騰させて宇治の茶に使用したら、気分だけでも盛り上がるかもしれません。

世界一狭い?世界遺産の境内を歩く

決して、茶化していません。

しかし私は、この「世界一狭い世界遺産」に、しんそこ惚れこんでしまいました。

境内は本当に狭く、隅から隅まで歩いても5分とかからないでしょう。

その小さな境内をじっくりと歩く楽しさ。

京都の寺院、50箇所以上めぐり歩いて、なんか、はじめて楽しい寺院にたどり着いた、そんな感想です。

こんな「世界遺産」があるんですね。

 

「顕著な普遍的価値」には、けっして派手さや壮大さは必要でないということを、再認識した「宇治上神社」。

「宇治上神社」のご利益は、菟道稚郎子の聡明さから「学業成就」。

応神天皇より「勝負運」。仁徳天皇より「病気平癒」「悪運切り」「縁結び」。

早く、コロナ治まってくれないかな・・・切に願いました。

こじんまりとした「宇治上神社」にさようなら。

この寺院を、世界遺産に申請した人も、審査した人も、登録した人も、名君だと思います。

番外編:宇治神社

こちらは世界遺産ではないが、「宇治上神社」のすぐ近くに「宇治神社」というのもあります。

「平等院」の方角から宇治川を越えて歩いてくると、橋を渡り終えてすぐ出会うので、「宇治上神社」に行く人は、間違えてしまうかもしれません。

実際、私も間違えかけました。

この「宇治神社」は、世界遺産でこそありませんが、「宇治上神社」に祀られている菟道稚郎子の宮居の跡と伝えられています。

「宇治上神社」と違って、境内に細かい砂利が敷き詰められた、神社らしい神社?

「宇治上神社」は土でしたから。

二つの神社を見学し終わり、側道を歩きます。

与謝野晶子の歌をみつけました。

ヒカルゲンジの樹も。

では、本日最後の見学「興聖寺」に向かうとしましょう。

今回の「晩秋の京都5日間一人旅」の全行程はこちらです。