待合室で待っていた中国人、ウイグル人たちと改札へ向かいます。
乗るのは10:09発、和田(ホータン)行き。私は、途中のカシュガルで降ります。
それでも17時間の旅。
日本で、17時間も列車に乗り続けるなんて、もうできない気がしますが、他の乗客はどこに行くのかも気になります。
シルクロード列車の入線
跨線橋を渡って、ホームへ。昨日、あれだけ暑かったのがウソのように、涼しい風が吹いています。
ちょうど、そこへ列車が入ってきました。
精悍なかっこいい電気機関車が、濃緑色の客車を引いています。
中国の人たちも列を作って並ぶようになった、とは聞きましたが、都市部だけかな。
でも、立席のチケットだと、われ先にと思う気持ちはわかる気がする。
長時間の移動ですから。
私の乗る9号車軟臥車は、もっと前方です。
車両ごとに乗客をチェックする女性服務員。
ホームを歩いていると、これから旅立つという気がするなあ。
やっぱり、列車の旅はいいね。
この列車の行き先表示板。
私が乗るのは、トルファンからカシュガルまでだけど、この列車はカザフスタン国境に近い伊寧(イーニン)を前夜23:18に出て、ウルムチを通り、ここトルファンからカシュガルを経て、終着駅の和田(ホータン)に着くのは10:20。
つまり、二晩走る列車ってこと。
走行距離2,600キロ以上、走行時間35時間、日本では考えられない文字通りの長距離列車です。
チケットを見せて車内に入ります。服務員はウイグル系の素敵な女性でした。
シルクロード列車の時刻表
いよいよ出発です。カシュガルまでの17時間。
旅の目的は、天山南路の景色、点在する町の風景を眺めること。
カシュガルまでの時刻表はこの通りです。
トルファン | 10:09 |
和碩 | 12:49 |
焉耆 | 13:17 |
コルラ | 14:05 |
輪台 | 16:10 |
クチャ(庫車) | 17:36 |
新和 | 18:09 |
アクス(阿克蘇) | 20:57 |
カシュガル | 3:20 |
列車が発車し、「吐魯番」の駅名票が通り過ぎます。
17時間過ごす私の部屋はここ。この2号室の5番、すなわち下段です。
扉の中は静まり返っていたので、ひょっとしたら相客は眠ってるのかなと、音を立てないようにコンパートメントの中に入ると、案の定寝ていました。
しかも、なんと女性でした。
コンパートメントの相客が男女かち合うのは、中国ではよくあることです。
カーテンの仕切りもないので、女性からしたら、どんな気分だろう。
トルファン駅を出て、しばらく大勢の鉄道員による保線工事が続きます。
「労働節」なのにご苦労様です。
相客は、向かいの下段の女性と、上段の男性2人。
2人とも眠ってるので、シャッターの音で起こしてはいけないと思い、通路に出ます。
列車は、トルファン郊外の砂漠を南に向かって走ります。
南彊線 車内の雰囲気
隣のコンパートメントは、子供連れで賑やかです。
さっきのウイグル人っぽい女性車掌が検札に来ました。
チケットを回収して、カードを置いていきました。
私は、「カシュガルの手前で起こしてくれますか?」と翻訳した文書をアプリで見せると、「もちろん。」と笑顔で返してくれます。
やさしそうな女性車掌でした。
カシュガル到着は早暁3:20。スマホの目覚ましだけでは不安です。
快調に走っていた列車が停車。しばらく止まっています。
通路には、眠りから覚めた子供たちが、我が物顔で走り回っています。西域の朝10時といえば、標準時で朝8時ごろ。ちょうど目覚める時間です。
お、子育てパパ登場。かっこいいぜ!
ところで、これだけ子供連れ、すなわち家族連れが多いというのは、観光というより、「労働節」を利用した里帰りなのかな。
止まっているわが列車の横を、猛スピードで列車が追い越していきました。私が乗っている列車は特別急行ではないんだね。
列車が再スタートしました。音を立てないようにコンパートメントに入り、景色を眺めます。
林立する風力発電の風車。
風車は止まっています。今日は風が吹いていないようです。
あの橋脚をこれから渡るんでしょうか。
上から見下ろすと、迫力が違いますね。
また通路に出てみました。
こちらは、天山山脈の方角。視界には、砂と岩山しか入ってきません。すごいところです。
車内販売も、よく通ります。
隣の車両に行ってみました。隣は普通座席車。
なんと、立ち客でいっぱいです。
どこまで行くのか知りませんが、長距離の移動を立ちんぼって、大変だ・・・
こちらは、反対側の隣の車両。硬臥車(日本でいうところのB寝台車)でした。
3段ベッドの頭はそんなに窮屈そうに思えなかったけど、ベッドの幅が狭い。
最上段の乗客は怖いんじゃないかな。
中国の列車は、通常、軟臥車両の隣に食堂車が連結されています。
ところが、この列車は両サイドは客車でした。
まさか、食堂車がないとか・・ 軽い不安を抱えながら、自分の車両に戻ります。
車窓には、雪をかぶった天山山脈。
オアシスのような町が現れると、
駅も現れます。この列車は通過です。
砂地の大地に緑が現れる不思議。
そして、また砂地の大地に戻ります。
雄大な景色に飽きることがありません。
南疆線 コンパートメントのひととき
景色を眺めていると、上段の男性客が降りてきて、身振りで私に「ここに座っていいか?」「もちろんです。」
この男性もウイグル人のような顔をしています。
その、どこか西洋を思わせる顔つきで、中国語を話されると、なんか、とてつもなく違和感があります(笑)
列車は、天山山脈の勾配を登り続けています。
トルファンの標高が海水面下であったことを考えると、実に1,000mも登ってきたことになります。このあたりが、南疆線建設の最大の難所であったらしいです。
かつては、このあと標高2,500mほどまで登って、天山山脈を越えていました。
この難所を克服するため、ループ線という、勾配を緩やかにするために弧を描くように線路が敷設されていたようです。
上段の男性が筆談で話しかけてきます。
私が日本から持ってきたwifiが、こんな山奥でも繋がるのが不思議ですが、私もアプリで答えます。
翻訳アプリって、ほんとに便利だな。
この男性は、次の停車駅「和碩(ほしゅ?)」で降りるそうです。
やはり、「労働節」を利用して故郷に帰るとのこと。
ふだんはウルムチで仕事をしているようです。
こんな、とりとめのない会話をしていると、列車はトンネルに入りました。
これが、南疆線の難所であった天山山脈越えをトンネルでぶち抜いた「中天山トンネル」。
この全長21キロのトンネルの開通により、9時間かかっていたトルファン~コルラ間が、一気に5時間程度にまで短縮されました。
寒暖の差が激しいこの地では、トンネルの建設は困難を極めたそうです。共産党の「一帯一路」構想にかける思いが、透けて見えます。
実際、トンネルは長く、真っ暗闇の状態が20分近く続きました。(コンパートメントに明かりがないので・・)
トンネルを抜けると、コンパートメントに男性はいませんでした。顔でも洗いにいったのかな。
標高も上がっています。
新しくできた区間なので、列車も速度を上げています。おそらく120キロ以上。
トルファン方面へ走るバス。
男性が、戻ってきて、スマホを私に見せます。
そこには、日本各地で「令和」を祝う行事が表示されていました。
そして、日本語で「おめでとう!」と言ってくれます。
そうだ、今日は「令和元年」最初の日だったんだよな。
それが、こうして月の砂漠のようなところを旅しているのが不思議。
軽い罪悪感も湧き起こります。
水のない川に架かる橋が、町が近づいたことを知らせてくれます。まもなく、男性の故郷 和碩です。
和碩駅に到着。
男性とは、ここでお別れ。なんか、15年も前にシベリア鉄道に乗ったときのことを思い出しました。
乗ってくる人もけっこういます。
和碩を発車。まだトルファンから3時間足らず、カシュガルまでは14時間以上あります。