人間の行動に圧倒されたのはすごく久しぶり。
ひとかけらも曇りのない目。
堂々とした表情。
宗教の聖地とは、こういうことか・・・
16時まで動かない循環観光バス
凛々しく胸を張って歩く人々を前に、非ムスリムとしての気後れからオドオドとしていた自分が逆に恥ずかしくなり、私も堂々と歩こうと思いました。
まずは、メディナに着いたら乗ろうと思っていた「循環観光バス」の時刻の確認です。
こんな具合に、メディナ郊外の主要地点を循環してくれるオープントップの観光バス。
どこの国にもある、いわゆる「はとバス」が、メディナにあるのは驚きました。
しかも、なんと24時間営業。
いくらサウジアラビアが夜型社会だと言っても、深夜に需要なんてあるのかな・・・
ところが、24時間運行という事前の情報にタカをくくってチケット売り場を訪れてみると、13時から16時までは店じまい。
お祈りの時間にあらゆるお店が閉まるのは知ってたけど、暑い日中も閉まっちゃうんだ。
現在13時半・・・
バス自体は、お祈り時間以外運転されてるみたいだけどね。
さて、どうしましょうか。
バスチケットを買えるまで、あと2時間半。
とにかく、どこかで休みたい。つまり、とんでもなく暑い。
それにしても、メディナの「預言者のモスク」の周辺はすごく都会だった。
そして、みんなビル影を求めます(当たり前だ)
気温40度以上の太陽にさらされてたら、アラブ人だって日干しになってしまう。
お土産屋さんはあとで回るつもりだけど、とにかくどこかで休みたい。水分も補給したい。
お祈りが終わって、アイスクリーム屋さんは大行列。
しかも、座る場所ない・・・あきらめましたw
「預言者のモスク」折り畳み式日傘の下を歩いてみる
「預言者のモスク」の近くにいれば、どこでも目に入る威厳を放つミナレット。
そして、特徴的な日傘。
意を決して、「預言者のモスク」の敷地を歩いてみることに。
チキンな私は、首から「社員証」のようなものを提げたスタッフのひとりに「ここを歩いてもいいのか?」と聞くと「ウエルカム!」。
それだけで、心の重荷が100kgくらい取り払われた気分。
ムスリムの皆様に失礼がないように、モスクの大理石の上を歩きます。
「預言者のモスク」は、イスラム教創始者ムハンマドの霊廟。
ここで、簡単にムハンマドとヒジュラ、すなわちイスラム教創設の経緯を簡単におさらいしておきましょう。
- 570年ごろ、アラビア半島の地で大いに栄えていたクライシュ部族の裕福な家庭に、生を受けたのがムハンマド。
- 610年。メッカ郊外のヒラー山で瞑想をしていたムハンマドは、「唯一神アッラーの正しい教えを人々に伝えよ」と啓示を受ける。
しかし、当時のメッカは多神教が崇拝されている地域。布教を行うムハンマドは部族から迫害を受ける。 - 622年。ムハンマドは少数の信者とともにメディナに移り住みイスラム教徒の共同体をつくる。これがヒジュラ(聖遷)。
- このヒジュラのあった西暦622年7月16日を元年とする太陰暦が、イスラム暦。
- ムハンマドはメディナでイスラム教徒の力を拡大。メッカから再三戦いを挑まれるも、630年には巨大な勢力で逆にメッカを征圧。
- 多神教の神殿であったカーバ神殿をイスラム教の聖殿とし、メッカは聖地とされる。
- 632年ムハンマドが亡くなるとメディナで葬られ、「預言者のモスク」が霊廟となる。
思いっきり省略して書いてしまったので、なにか無礼な表現があったら申し訳ない。
でも、ここがまさに地球上で17億人以上といわれるイスラム教徒の聖地。
無宗教者の私が恥ずかしくなるような敬虔な場所。
ところで、この日傘の効果は絶大だ。
空気が乾燥しているので、日向と日陰の気温が明らかに違う。
お祈りしてるのかと思ったら、思い思いに休み、涼をとってます。
そして、のども渇く。
気温は42度。私が着ている白装束は、汗で透けてます。アラブの人は汗かかないのかな。
おや、水飲み場がありました。
いやあ、よかった、いただきましょう。
大理石の水槽に、ちゃんとコップまで用意されています。
そして、なみなみと注がれる冷水。
イスラム教の聖地メディナに乾杯。
肩に涼しい風があたる・・・と思ったら、扇風機。
ちゃんと水もスプレーのように霧散させてます。暑い国の知恵。
さて、日傘の下で、私も休みますか。
カーペットは信者のものでしょう。私は大理石の上にぺたりとすわります。
腰を下ろして、目の前の光景を眺めます。
白装束を着込んでいるといっても、私の風貌はあきらかに東洋人。
でも、誰も咎めたり、奇異の目で見る人はいません。
メディナの観光が許されるようになってから、まだ日は浅く、私設警察などにからまれるという情報もあったので、とりあえずは嬉しい。
ところでこの巨大な日傘。
何本あるのかわかりませんが、夜になると自動的に畳まれる折り畳み日傘。
なんと、日本製とのこと。
すると、さっきの扇風機も日本製かな。
宗教の勧誘を受け驚いた話
大理石の上に座り込んで、コップで水を飲みながら、目の前の風景に感銘を受けていると、突然話しかけられました。
「アーユー ムスリム?」「ノー・・・」(ヤバいかな・・)
その20代と思しき2人組の男は、警察だとかモスク関係者のような感じではありません。
しかもトーブなどをまとってなく、ジーンズ姿。
そして、パスポートを見せろ、と一言。
拒むわけにいかないなと思い、差し出すと、各ページをスマホで写真に収めていく。
なにかに巻き込まれたのは明らか。
でも、この場所で騒ぎたてるのは絶対に得策ではない。
いくつかの質問に素直に答えていると、「ついてきてくれ」といって、私の腕をつかんで歩き出しました。
さすがに「ワットハプン!」「ノープロブレム」
全然ノープロブレムじゃないよ、この状況・・・
どこまで連れて行かれるのかな、とモスクの広い敷地を歩かされ、なんとモスクの中へ。
そして、すぐに右側にあったエレベータに乗せられ、事務所のような部屋にとおされました。
そこで待っていたのは、真っ白なトーブに顔一面にヒゲを生やした恰幅のいいおじさん2人。
おじさん2人がニコニコと笑っているのが救い。
私を連れてきた2人組みは、私を引き渡すと部屋から出て行きました。
(なにがはじまるんだ・・)
身構えていると、さっきと同じようにいくつかの質問。
どこから来た?
なぜメディナに来た?
信者か?(ていねいにノン・レリジョン・・・)
そして、「イスラム教徒にならないか?」
宗教の勧誘でしたか・・・少しはホッとしました。
さっきの2人は、観光客などの非ムスリムに目星をつけ、見込みありと踏んだら、この事務所に連れてくる役目だったのでしょう。
2人のおじさんは、わかりやすい英語で、丁寧に勧誘をせまってきます。
無下に断るのも失礼。
「私はイスラム教を尊敬しているが、ただちに信者になるのは難しい。ゆっくりと考えさせてほしい。」
あわててるので、杓子定規な英文しかでてこない・・・
「ただちに」を「エミディエイトリー」なんて、まるでTOEIC英語だ。
私が一生懸命に英単語を並べ立てると、おじさんたちはニコニコしながらうなずいている。
とにかく険悪な雰囲気にならないようにだけを考えて、「リスペクト、リスペクト」を繰り返し、1時間ほどの勧誘を逃げ切りました。
勧誘から解放される
なんか、サラッと書きましたが、この1時間意識が飛びました。
アタマの中は真っ白です。
モスクから出て、「あれ、非ムスリムが中に入っちゃっていいのかな?」と気づくのも、ずっとあと。
事務所の中は、かなり冷房が効いていた。
42度の炎天下にふたたび放り出されると、めまいがする。
覚悟はしてたけど、まさか拘束されるとは。
いや拘束と言ってはいけないだろう。
でも、全身に吹き出している汗が、いっきに冷や汗に変わるくらい驚いたし、最初は怖かった。
ここはイスラム教の聖地。勧誘くらいあって当たり前。
全身白装束だったのが、「見込みあり」とされたのかな・・・
とにかく解放されてよかった。
ヘンな話だけど、一度捕まったので、免罪符ができたような奇妙な気分で歩ける。
私は、素敵な景色を見たくてメディナに来たし、素晴らしい光景を記録したくて写真を撮っている。
なにも失礼なことをしているつもりはない。
そのことを言ったら「OK!ウエルカム!」と言ってくれたムスリムのおじさんたち。
とはいうものの、全身の力が抜けるほどクタクタになってしまった。
おじさん2人にいただいた水を飲んで、気持ちを落ち着かせます。