北海道の鉄道というと、広々とした原野の中を走る雄大な光景が目に浮かぶ。
ところが、函館本線の「長万部~小樽」間は、山間を曲がりくねる峠越えのルート。
「山線」という通称が与えられた線路である。
函館本線「山線」とは
函館本線は、かっては北海道の大動脈。
鉄道全盛の大日本帝国時代は、本州から北海道をまたいで樺太に至る最重要インフラであったと想像する。
しかしながら、今ではこの函館本線の路線としての格は大きく凋落している。
交通機関にはスピード化が求められ、幻配とカーブが多い「山線」は嫌われ、優等列車はすべて地形が平坦で、比較的人口も多い室蘭本線回りに移行したのである。
それでも、昭和の終わりごろは、「山線」経由の優等列車もなんとか数本は運転されていた。
※1978年8月の時刻表より
現在は、定期の優等列車はなく、デイーゼルカーがのんびり走るローカル線に落ちぶれている。
私が学生時代、周遊券を使って旅をしまくっていた頃、かっての大動脈が落ちぶれたという雰囲気が大好きで、函館から札幌へ向かう際、わざわざ本数の少ない「山線」を利用していたのが懐かしい。
その「山線」が、北海道新幹線の札幌開業に合わせて廃止されるかもしれない。
私が、十何年かぶりに小樽へ来た理由である。
小樽駅の駅弁「かにずし」&満員の車内
さて、早朝の羽田空港から飛んできたので、実はまだ朝ごはん食べてない。
せっかくローカル線に乗るのだから、車内で味わいたく、小樽駅の駅弁を物色。
「ほたてめし」すごく安くないか?と思いながら、ひさしく口にしてない「かにめし」をチョイス。
そして、駅弁をかかえて小樽駅のホームへ。
小樽発10:53発の倶知安行きは、2両編成のディーゼルカー。
ガラガラだろうと、たかをくくって車内に入ると、かなり乗っている。
でも、なんとか4人用のボックスシートをゲット。
小樽駅の「かにめし」。北海道の駅弁を現地で食べるのは久しぶり・・
ところが、札幌からの列車が到着。
いっきに乗客がなだれこんできて、駅弁どころではなくなった。
「山線」で人が立つほど混みあう光景を見るのははじめて。
しかも、外国人が多い。
「山線」との再会は、ほんとに久しぶりだけど、この歳月の間に、雰囲気も変わったようだ。
「山線」小樽 ⇒ 倶知安の風景
「山線」は、まず途中の倶知安まで1時間19分の旅。
ディーゼルカーは、エンジンをうならせ、速度を上げては、各駅に止まっていく。
長万部まで、5つの峠を越える「山線」。駅ごとに雪が深くなっていく。
雪が舞ってきたけど、車窓には町が現れ、
余市に到着。知る人ぞ知る、日本のスコットランド「ニッカウヰスキー」の聖地。
小樽~倶知安のなかで、唯一町らしい町ということもあって、大勢の乗客が下車。
それでも、まだ立つほどの乗客があふれ、しかも半数は外国人。
こんな「山線」ははじめて。この人たちは、どこまで行くんだろう?
仁木を出発して、列車はふたたび登りにかかります。
雪に埋もれた然別駅。
積雪何mなのか・・
然別駅を出発すると、車窓は連続する防雪林。
枝の付け根に雪が降り積もる様子。
防雪林の切れ目には冷え切った川が。
山間の銀山駅に到着。
小樽は晴れていたのに、天候が一変しました。
小沢駅 吹雪の中の列車交換
銀山の次が小沢。
列車行き違いのため、5分ほど停車。
小学生のころ、この町で泊まったことがある。
あれは、なんという旅館だったか・・・1泊2000円という格安で、でも、女将さんが小学生姿の私を目を丸くして見つめていたのを覚えている。
そのときは、この小沢から支線として出ていた岩内線という、さらに奥地へ進むローカル線に乗った。
それから30年以上もたって、再会した小沢駅。
それにしても、すごい雪。レールがまったく見えない。
これで列車が走れるのが不思議。
雪の彼方から、対向列車が姿を現す。
雪の中をもこもこともがきながら近づいてくる姿がいじらしい・・
そして、一段と強くなる雪。
こんなことが毎日ふつうに行われているのが不思議な世界。
対向列車が通ったため、レールが現れた道床。
小沢から、また峠をひとつ越えて、倶知安に到着。
倶知安駅でのひととき
「山線」の中心駅、倶知安に到着。
満員だった乗客が、こぞって列車を降りていく。
そして、接続する長万部行きのホームに並ぶ・・・
正直言って、私の知っている倶知安駅の光景ではない。
相変わらず外国人だらけだし、キタキツネにつままれた気分。
長万部行きは、どうせ単行(一両運転)だろう・・
まあ、座れなくてもいいや。
23分間の乗り換え時間を利用して、いろいろ見学し、旧知を懐かしみたい。
今乗ってきた列車。よくわからないけど、わざわざホームを行き止まりにする改造をする必要あるんだろうか?
おカネもかかるだろうし。
改札口の外に出てみよう。
外国人観光客に埋め尽くされた待合室。ここは、ほんとに倶知安か?
駅前広場。でも、ニセコなどのスキー場が近いし、実はコロナ前から外国人でにぎわっていたのかも。
私が知らないだけだ。
北海道新幹線の駅もできると聞いている。観光でにぎわうならそれもよし。
小学生の頃の思い出。
次に乗るのは、12:35発の長万部行き。
私の前を歩く2人組も外国人、タイ人らしい。
倶知安駅の不思議な体験だった。
倶知安~長万部 「山線」の旅
予想通り、車内は満員。でも、窓際ではないけど何とか座れた、よかった。
ディーゼルカーは、倶知安を発車するとすぐに山間へ。
雪深い比羅夫駅に停車。
この駅名の由来は、なんと阿倍比羅夫からきている。
日本書紀による、飛鳥時代の658年、蝦夷征伐を行った阿倍比羅夫である。
比羅夫は、このほかにも樺太や奥尻島までも追撃した伝説が残され、663年の白村江の戦い(朝鮮半島)もサポートしている。
孫には、遣唐使として大陸に渡り、唐の役人まで昇りつめた阿倍仲麻呂がいる。
とんでもない家系である。
乗客の外国人に教えてあげたい・・
比羅夫を発車したディーゼルカーは、尻別川に沿いはじめた。
川の流れが速いためか、凍ってない。
カタカナ駅のニセコに到着。
外国人は、ここで降りるのかな・・・
とんでもない、ニセコからさらに乗ってきた。
1日数本の列車を器用に乗りこなす外国人観光客。
でも考えてみれば、私も先月、タイのメークロン鉄道(1日4本)に乗ってきたんだ。
やってることは同じかw
旅が好きなもの同士、情が移る。
昆布駅。
屋根が雪に押しつぶされそう。
たまに、町並みを見かけるほかは、一面の銀世界。
積雪2mはあろうかの蘭越駅。
雪の中のローカル線に、ただ乗ってる意味のない行為。
でも、意味がないから楽しい。
世の中の「意味ある行為」の多くは、自分の意思と無関係なことが多い。
だから、自分が「意味のない行為」を楽しめる人間で嬉しい。
「意味のない行為」のことを、趣味と呼ぶのかも。
雪に埋もれた駅名標を眺めながら、ふとそう思う。
蘭越駅を出て、窓外は猛吹雪に。
線路がまったく見えない。大丈夫なんだろうけど、運転手も気が気ではないだろう。
次は目名駅。
これ以上降ると運転中止に違いない。
でも、雪が激しく降ってないと雪国の雰囲気がでない。
わがままな旅人だけど、神様はそのわがままに応えてくれた気がする。
信号がかろうじて見える、おそらく、走行の限界に近い雪の降り方。
ディーゼルカーは、雪のため音もなく目名駅に進入。
雪は音を消すというのが、実感としてわかる目名駅の停車時間。
目名を出ると、次の熱郛までは約20分。
ずっと、タイミングを逸してきたけど、小樽の駅弁を味わおう。
満員の乗客の中で、包みを開くのは、さすがに恥ずかしい・・
学生の頃は、正直、高くて駅弁には手が出なかった・・
120円の立ち食いそばで食いつないでたよな・・・そんなことを思い出しながら、小樽のカニずしを味わう。
窓外は、すさまじい猛吹雪。
そして、熱郛駅。
黒松内駅。
黒松内駅で、ふたたび列車交換。
2000年の有珠山噴火の際、当時の「寝台特急北斗星」や「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」といった人気寝台特急が、この「山線」を迂回ルートにしていたことをご存じだろうか。
そんなこと言われても、ちょっと信じられない。
二股駅を発車。最後の駅。
そして、長万部到着。この雪の中、定刻の14:11だった。
倶知安出発時満員だった乗客は、ほぼ乗りとおし。
豪雪の中、交通機関として機能している「山線」の姿はカッコよく映る。
長万部駅でのひととき
長万部駅のホームを、キャリーを引っ張る外国人が歩く、私としては初めてみる光景。
私は、もうしばらく、寒いホームにたたずんでみる。
こちらも、「この寒いのに、山越え大変だったね・・」と労ってやりたい顔。
今夜の宿は登別。待合室に向かおう。
これは、完全に中国人&台湾人対策だ。
まさか、長万部駅で月台(プラットフォーム)という文字を見るとは思わなかった。
長万部駅の跨線橋を占拠する外国人。
私も一緒になって眺める。
長万部まで運んできてくれた、回送されていくディーゼルカー。
この駅に、ほんとに新幹線が通るんだろうか。
このシーンだけ見てると、いまいちピンとこない。
駅舎の外に出てみた。
十数年前と変わらない駅舎。
駅前広場も変わらないのだろうか。
この「そば屋」は、昔からあったような気がする。
残念ながら14時で閉店だった。
すごいつらら。
懐かしいスタンプ。
こっちは、小学生時代の思い出。
朝から「カニずし」しか食べてないので、小腹がすいた。
余市のアップルパイをおやつがわり。
次に乗る列車は、15:05発の特急北斗13号札幌行き。
「えきねっと」で予約しようとしたら、なんとグリーン車は満席。
特急北斗で登別へ
ふたたび、跨線橋にあがって、長万部駅の広い構内を眺めてみる。
そこへ進入してきた特急列車。
優等列車のほうが哀愁を感じるのはなんでだろう・・
登別までは、約1時間。今夜は、温泉旅館でのんびりする予定。楽しみだ。
室蘭本線を快走する特急北斗。
これまた驚いたのは、車内の半数が外国人だったこと。
コロナ前からそうだったんだろう。外国人の復活は、北海道としてはどうとらえているのか。
ところで、「山線」に対して、こちらは「海線」。
複線で地形も平坦。特急列車は、気持ちいいほどに速度をあげる。
眺めている海は太平洋。今朝見た日本海よりも荒れてる気がする。
本日の旅は、千歳からはじまって、渡島半島の付け根を半周するローカル線の旅だった。
たっぷり雪を堪能したので、今夜の登別温泉が際立つ予感。