天安門とは、明代の永楽帝が造営した「皇城」の正門で、かつては「承天門」と呼ばれていた。
そして清代に「天安門」と改称され、現在の姿となる。
1949年10月1日、毛沢東が中華人民共和国の成立を高らかに宣言した場所でもある。
だから、言うまでもなく天安門は、現代中国にとって政治的・歴史的な象徴だ。
一方で、この場所は世界的に見れば多様な解釈を生む地点でもある。
過去の出来事を思い起こす人もいれば、中国の国家的な誇りの象徴と見る人もいる。
私は、そのどれでもない。
ひとりの「境界を超える旅人」として、景山公園から故宮、そして天安門に向かって歩いている。
完全予約制となった天安門広場
故宮を左手に見ながら南へ歩くと、途中いくつか検問がある。
市民だけでなく外国人も例外なく、空港のセキュリティチェックさながらに行われる。
なので、むしろ、天安門に入る直前のセキュリティは、ウイチャットペイの画面の確認だけだ。
中国共産党を象徴する場所として天安門広場は中国人観光客が押し寄せる場所。
かつては自由に出入りできたこの場所も、完全に予約制になっている。
予約の方法は簡単で、ウイチャットペイの画面で「天安門」と検索すれば、すぐ出てくる。
時間帯も選べるし、むしろ混雑がなく、私のような弾丸旅行者にとっては、都合が良い。
それにしても、旅は時間を短縮させる。
この光景は9年前に訪れた時と、まったく同じ。
当たり前だけど、毛沢東の顔もまったく変わってない。
それに引きかえ、自分はどうだろうか。
この9年、いろいろ浮き沈みあったけど、ビジネスでは昇格して給料も上がったし、旅では50カ国以上訪れた。
2人の娘たちも大学まで進学させ、無事に就職させたのだから、9年間なにもしなかった、ということにはならない。
むしろ、かなり頑張ったと、自分を褒め称えたくなる。
次から次へと押し寄せる中国人たち。
この人たちの9年間はどうだったのだろうか。
コロナも挟んでるし、それこそ人それぞれ、波乱万丈の人もいれば順風満帆の人も。
人の人生はさまざま。そんなことを想像するのも、旅の楽しさでもある。
天安門広場の国旗降納式
さて、天安門との再会は果たしたけど、天安門広場に赴くとする。
実は9年前は、天安門の前には立ったけど、天安門広場には行けなかった。
なにか規制が行われていて、とっても残念な思いをしたのを思い出す。
地下道をくぐると、そこは天安門広場。
夕暮れをむかえ、寒さがいっそう厳しくなる天安門広場。
寒いのは仕方ないけど、真冬だからこそ、天安門の上に青空が広がっているわけだし、9年越しの念願が叶って、天安門広場から天安門を眺めることができて感無量だ。
夕暮れの空にはためく中国の国旗「五星紅旗」。
その下に群がっている人は、まもなく行われる降納式を待ち構えている人たち。
国旗の掲揚と降納は、国旗護衛隊員によって行われる。
その時間は、日の出と日の入り。
当然、その時間には、大勢の観光客が集まる。
そう言う意味でも、完全予約制としてくれたのは、旅人にとって本当にありがたい。
もちろん私も、日の入りの時刻を調べて、その時間に入れるようにウイチャットペイで予約した。
2月の北京の日の入りは17時45分。
まだ時間があるので、天安門広場をすみからすみまで歩いてみる。
こちらは「人民英雄記念碑」。高さは37.94m。
台座部分には、林則徐によるアヘン焼却からはじまって、太平天国の乱、辛亥革命、抗日戦争などのモチーフが飾られている。
そしてこちらは、中国国家博物館。
143万件以上展示物が収められ、とても1時間や2時間では見切れないという。
さて、そろそろ降納の時間かな。
夕暮れの空にはためいている中国国旗が美しい。
政治、宗教、信条、民族などの垣根を越えて、世界中の旅を純粋に楽しめる、日本人旅人に生まれたことに感謝したい。
観光客が一斉にスマホを取り出しました。
私の位置からは見えないけど、どうやら護衛隊員が出動した模様。
思いっきり背伸びをします
胸を張り、人糸乱れぬ姿で行進するさまは、文句なく美しい。
公安の人の顔がもろに映り込んでしまってるので、さすがにモザイクをかけさせていただく。
毛沢東ときくと、どうしても文化大革命を想起してしまう。
日本でも1920年代にはプロレタリア文化思想が活発化した。
しかし、これだけ世の中が複雑に繋がり、いくつものレイヤーが絡んでくると、強権者がいる国といない国では、活動の速度が指数関数的に異なってくる。
それが、いいか悪いかは別として。
国旗が下がりはじめました。
ちなみに、2月の北京の日の出は7時。
早朝でも、多くの観光客が掲揚式を見にくるそうです。
ライトアップされた天安門
さて、国旗の降納が終わっても、なかなかライトがつかないな、と思ってたら、18時を過ぎてようやく点灯。
天安門に灯りが灯りました。
はっきり言って寒い。
日中は0度くらいまで上がってたみたいだけど、今の気温はマイナス5度。
でも、冬の北京が寒いなんて、わかりきっていること。
観光客の顔に、寒さに震えた表情は見られません。
政治、民族、宗教、信条――そうしたものを一度横に置くことで、この美しい景色を眺めることができる。
ひょっとして日本人旅人とは、「どこにも属さず、しかしどこにも受け入れられる存在」という、世界でも類稀な種族ではないのか。
ふと、そんな考えがよぎった。
天安門は、中国を象徴する国家の門。
しかし同時に、旅人にとっては歴史と現在が交差する「心の交差点」。
その場所に身を置ける立ち位置に、ただ静かに感謝しつつ、天安門広場をあとにしました。
地下鉄で、什刹海に戻ります。
1号線でひと駅乗って、王府井で8号線に乗り換えればすぐ。
什刹海に戻ってきました。
こちらもライトアップされてました。
その運河の隣にあった大衆食堂で夕食。
冷えた身体に、いくらでも入りそうな、美味しくて熱々のチャーハン。
ホテルのバルコニーより。もうすっかり日が暮れました。
仕入れてきた非常食。
でも、3万歩以上歩いた今日は、もうまぶたがくっつきそうに眠い。
明日は、万里の長城の縦走でさらに身体を酷使するから、もう眠ってしまいましょう。