英雄たちの前に立つと、なにかを考えようとする思考そのものが止まる。
敬意なのか、歴史の圧力なのか、自分でもよく分からないけど、ただ頭が真っ白になり、ふっと力が抜ける感覚。

その感覚のまま、私は隣の錦里古街を歩いて、成都最後の時間を費やすことにしました。
三国志の聖地とされる武侯祠の周囲には、錦里古街と呼ばれる繁華街が連なっています。

錦里古街を歩いて「ひとり旅」について考えてみる

錦里は、いわゆる中国の「老街」。
明朝時代の古い町並みを再整備した歴史商業街区である。

観光客であふれ、提灯が吊るされ、川劇の変臉や三国志グッズが並ぶ、歩いてとても楽しい老街。

しかも今日は日曜日の午後。
人波は絶えず、串焼きの煙が立ちのぼり、子どもたちの笑い声が重なる。

日本で言えば、縁日そのものだ。

老街という存在は、中国の急速な都市化の裏返しでもある。
超高層ビルが林立する現代中国において、「過去」は意識的に演出される。
石畳、木造建築、赤い灯籠など。

そこには懐かしさと同時に、どこか舞台装置のような人工性もあるのは否めない。
それでも私は、こうした老街を歩くのが大好きだ。
なぜなら、ここには「いま」を生きる中国人の休日があるから。

観光地化された歴史空間のなかで、家族が串を分け合い、若者が写真を撮り、老人がゆっくり歩く。
そんな光景を眺めると、「自分はひとり旅をしてるんだ」という、孤独感がたっぷり湧き上がってくるのが楽しい。
そんな思いが脳裏に浮かぶと、ふと「ひとり旅」について考えをめぐらせたくなった。

旅とは、旅する者一人一人が、自由にスタイルを確立できるところがいいのだと思う。

「ひとり旅ができる人・できない人」なんて議論をたまに見かけるけど、そんなに目くじら立てることでないように思う。
旅なんて、型にはめるものではなく、ましてや無理にするものではないからだ。

ひとり旅が好きな人もいれば、グループ旅行が好きな人もいる。
どっちがいいとか悪いとか、そんな話ではない。

旅の目的だって千差万別。

ただ街歩きをするだけで満足する人もいれば、グルメに走る人も。

SNSに写真をアップするだけだって、立派な旅のひとつ。
胸をはって、旅好きを自称すればよい。

ようするに、旅する人の数だけ旅の価値はあるわけだ。
しかし、私にとって、唯一、苦手な旅人がいる。

それは、旅に勝ち負けを求める人。

渡航した国の数、旅に出た日数、数字に現れる部分で、勝った負けた・・・
そんな人から見たら、成都にたった1日だけ滞在して、翌朝帰国する私のような人間はきちがいのように見えるだろう(^ ^)

私も、旅に出た回数や渡航国の数をプロフィールに記しているが、これは記憶を振り返る自分のためのもの。
尊敬する植村直己さんは、「山登りに勝ち負けはない」とおっしゃっていた。
旅にも勝ち負けなんてない。
だから、私は旅にあこがれるのだと思う。

ところで、いま私が歩いている街、成都は、三国時代、蜀漢の都だった。
しかし、この都市の歴史はそれよりはるかに古い。
紀元前4世紀、秦に滅ぼされるまで存在した古蜀王国。李冰が築いた都江堰によって水害を制し「天府の国」と呼ばれる豊かな盆地を手に入れた地。
成都は単なる三国志の舞台ではなく、二千年以上にわたり西南中国の中心であり続けた都市だった。

成都はこの数十年で、都市圏人口2000万人を超える巨大都市へと変貌した。
地下鉄は縦横に走り、ハイテク産業が集積し、内陸の拠点都市として再び国家戦略の中心に置かれている。

それこそ、勝ち負けの話ではないが、数の力というのはおそろしい。

三国志の英雄たちも、21世紀に、成都がこんな街に発展するなんて夢にも思わなかっただろう。

武侯祠で対面した三国志の英雄に心躍った気持ちを鎮めるように、私はひとりで静かに錦里を歩いた。

まだまだ見どころの多い成都の街。たった1日で去るのは、本当に惜しい。

だけど、明後日は仕事が待っている。会社員の悲しい性。

でも、だからこそ、時間を大切にするし、旅の記憶が定着するのだと思う。
時間とはカネと同じようなもの。
ありすぎると有り難みが薄くなる。
少ししかないから、大切に使うし、工夫をするのだと思う。

寛窄巷子で麻婆豆腐の食べ納め

ホテルへ戻り、成都最後の夜。
私はふたたび寛窄巷子にでかけ、四川料理でしめることにした。

麺類を食べてないのが少々心残りだけど、好きなものを好きなだけ食べればよい。
なので、昨夜と同じ、麻婆豆腐で。

メニューには載ってなかったけど20元とのこと。
麻婆豆腐は定番すぎて、メニューに載せてない、といったところか。

運ばれてきた麻婆豆腐。

この、後から来る辛味がなんともいえない。
これで20元(400円)とは、なんという四川料理のクオリティ。

ごちそうさま。たった1日滞在の成都旅が終わりました。
