佐藤優氏といえば、政治経済に関心のあるビジネスマンなら、まあ知らない方はいないでしょう。
氏の経歴にとやかく言う人もいると思います。
でも、そんな佐藤優氏が、15歳高校1年の時に、夏休み42日間を使って社会主義国を一人旅していたという事実には、ただただ驚いた。
この本が、日経電子版に広告が載ったのが2年前の2018年の7月。
ちょうどキューバへの旅に出る3日前だった。
「『深夜特急』の社会主義版」というキャッチフレーズにも惹かれた。
私はすぐにアマゾンでポチり、メキシコシティ行きANA便の中で読みふけったのでありました。
私自身は、15の夏は何してたかな?
青春18切符で、日本じゅうを放浪してたわww
それはさておき、早速紹介しましょう。
佐藤優氏のソ連・東欧一人旅のルート
これは、ただただすごい。
このルートを15歳で踏破するなんて、マジで尊敬します。
ソ連・東欧だけでなく、現在はウズベキスタンであるサマルカンドやブハラなど、シルクロードの要衝までコースに組み込んでいることもすごい。
旅行費用は、当時のお金で48万円。お父さんが出してくれたそうだ。
この理解ある父親が、佐藤優氏をつくりだしたのでしょう。
授業の合間を縫って、社会主義国への旅の準備に奔走する
旅の準備のところから詳細に記録されているので、まさに私好みの旅行記。
準備といってもただの準備ではありません。
外為法が改正される前で、当然厳しい外貨持ち出し制限があります。
そして、冷戦終了前のソ連、チェコスロバキア、ルーマニアなど、バリバリの社会主義国へ渡航する準備は、それこそ気が遠くなるようなもの。
それを氏は、学校の授業が終わった放課後に、旅行会社のアドバイスをもらいながら自力でやってました。
特にソ連は、旅行社の推薦状、全日程を決め、ホテル代、交通費など、すべてを事前に払い込まないとビザがおりない。
今そんなことやってるふつうの国って、トルクメニスタンぐらいしか思いつきません。
そして、ポーランド大使館では、ろくに英語もできないのに1人でのこのこやってきたことを怒られる。
この章だけでも読み応えありです。
エジプト航空・南回りでヨーロッパにアプローチ
当時の海外旅行、特にヨーロッパ路線は南回りという、地図を辿るようなフライトルート。
それをエジプト航空で行くのが、当時の格安航空券の王道だったらしい。
実際、48万円の旅費も、エジプト航空でチューリッヒに入る片道チケットが13万円で手に入ったからなせる業。
JALでモスクワ往復だと95万円。アエロフロートでも75万円という時代です。
アジアなら、数万円で旅ができる今日この頃。
私が、「現在はありがたい時代だ」と思ったのは言うまでもありません(^.^)
社会主義国を旅する現実
端的に言って、これはなかなか読める旅行記ではないですよ。
冷戦以前の社会主義国の臨場感を味わう機会は、タイムマシンでもなければできないのだから。
そこは氏の文筆が各々の国情を際立たせ、本当にそこを旅している気分に浸れます。
特にすごかったのは、ルーマニアからソ連のキエフへ移動するとき。
寝台列車の予約時に、ちょっとした錯誤があり、やってきた列車に乗れなくなってしまった。
車掌は英語を話さず、チケットは持っているのになぜ乗れないのかわからない。
ルーマニア人が集まってきて、「乗せてやれ」とスーツケースを車両に乗せようとするが、車掌に威圧高に跳ね返されてしまう。
そうこうしているうちに、列車は発車してしまった。
この列車に乗らないとキエフに行くことはできない。
しかも、次の国ソ連では、すべての旅程が確定されていて、変更がきかないかもしれないのだ。
氏はこのとき、涙がボロボロでてきたと描写しています。
これは、切符を買ったときに「運賃」「急行料金」「寝台料金」までは払い込んだが、「指定席券」が欠けていたことで起きた事象。
「指定席券」は、その場では買うことができず、席の指定は当日にならないとできない。
このような複雑な仕組みを、相手はルーマニア語で話すのだから、理解できなくて当たり前だ。
しかも、社会主義国における切符手配の非効率さは、想像を絶するほど非効率。
よくぞ氏は、15歳という年齢で、現地でのこれらの難業をクリアしたものだと感心します。
本書では、氏が訪問した社会主義国の様子が、旅人の目線で克明に記録されていますが、やっぱり独裁全盛期のルーマニアがもっともひどく感じる。
なんか、ルーマニア行きたくなりましたね(笑)
モスクワでは「北方領土問題」に言及
モスクワのホテルで食事中、客同士が「北方領土問題」について、言い争うシーンがある。
氏は、これを傍らで聞いて、意見までしている。
氏は15歳のときから、ソ連の思想に関心があったことがうかがえる情景です。
若干ネタバレ
横浜港での帰国時に、ちょっとしたハプニングがあります。
氏としても、無事に帰国できたことで油断してしまったのでしょうか。
まとめ
文中でも、会う人会う人が「なぜ高校生が東側諸国を旅しているのだ」と問いかけ、その次に、高校時代に、社会主義国の体制を見ておくことはとても勉強になると諭している。
氏の経歴や現在の肩書を忘れて、一つの長編旅行記として一気に読んでしまいましたが、読み終えて、この旅が、氏の経歴をつくったのだなと納得してしまいました。
私は、国際情勢には非常に興味があるけど、意見をしたり、あるべき論を語ったりするのは少々気後れする。
だから私は、一人の旅人として、本書をおすすめする。
未成熟な国を旅するのは、とても勇気がいるもの。
好感を覚えたのは他でもない。
氏は夏休み42日間をめいっぱい使い、帰国日の翌日には二学期の授業に出席してるんです。
しかも、その日に予定されている数学の試験の準備を、なんと旅行中にしている。
めちゃくちゃ感動しました!
会社員しながら、余暇をひねりだして旅をして、帰国の翌日に出勤を繰り返してる私が共感しないわけがありません。
旅人に、良い教訓となる一冊です。(上下巻なので二冊ですw)