作家東野圭吾さんは、私のこよなく愛する小説家の一人。
もちろん、著作の全てを読破していますが、今回驚いたのが著作の電子書籍化。
かたくななまでに拒んでおられた電子版のリリースに踏み切られたのは、当分続くであろう自粛活動を思ってのことらしい。
さすが一流の作家は目のつけどころが違う。
この電子版の中に「白夜行」が含まれているのを嬉しく思うのは私だけでしょうか。
「白夜行」は、数多い氏の名著の中でもひときわイメージが強い一冊。
何度も読んでしまったし、昨年北欧に出かけたときは、わざわざ日本から持っていった。
実際の白夜の下で「白夜行」を読んだらどんな気分になるんだろうと試したものでした(笑)
今回、恐れ多いですが、東野圭吾さんの名作中の名作「白夜行」を紹介させていただきます。
「俺の人生は、白夜の中を歩いているようなものやからな」
この白夜という自然現象を、小説のストーリーに喩えているのが、東野圭吾著作「白夜行」です。
よくぞ、このストーリーに「白夜行」というタイトルをつけたものだなあ、と感心してしまうし、こういう種のストーリーを描ける作家を、私はほかに知りません。
あらすじ
- 19年前、小学四年生の男女に大変な事件が起こる
- その事件を隠蔽する為に、二人は全く別の生き方をしていく
- 事件の核心に触れようとする者が現れれば、二人は共謀して闇に葬っていく
- そんな事件の真相をひたすら追いかける刑事
ぜひ読んでいただきたいので、あらすじはこのくらいにしておきます。
この本の凄いところは、上記の三番目について、全く描写されていないことです。
全て読者、あるいは刑事の推測のもとに成り立っている。
だから私のような単細胞な読者は、ストーリーの中盤に差し掛かるまで真相が見えてこない。
でも、あるとき、主人公が呟くんです。
このセリフは、グッと刺さりましたね。
白夜とは美しい自然現象。
しかし見方を変えれば、夜なのに昼のような状態。
白昼の下で、表社会で生きることができない葛藤を、何もかも中途半端な状態にたとえたのでした。
ヒロインが、自分の悪事をつねに隠蔽してくれる主人公に向けて、発せられた言葉。
このセリフでヒロインが主人公とつながりがあることが、ストーリー上で結ばれるのですが、私は羨ましかった。
表だろうと裏であろうと、太陽に見立ててくれる存在。
真実の世界でも、あるいは裏社会でも、こんな献身的な男女の関係って、そうはないと思う。
昭和後期の出来事を交えた叙事詩的スケール
事件発生は1973年。昭和48年である。
それから19年間。
主人公とヒロインの2人は、真実から逃げ続けるのであるが、時代背景に、まさに昭和を思わせるくだりが入り、読むものに臨場感を与えているのも本書の特徴。
たとえば、
- オイルショックでトイレットペーパーが品切れになる
- 銀行キャッシュカードのセキュリティ上の盲点
- NECのPC8001とフロッピーディスク
- 平安京エイリアン
- スーパーマリオ
- 連続少女誘拐殺人事件で世間を驚愕させた宮崎被告
昭和を知るものなら、誰でも記憶の片隅にある事象が、ストーリーのバックグラウンドに使われている。
たとえば、ヒロインがブティックをはじめるための資金の一部は、スーパーマリオ海賊版を売りさばいて得た犯罪収益である。
このあたりは、東野圭吾氏が元システムエンジニアであったのも、本書にかける思いを感ずるところである。
ドラマ「白夜行」がすごかった・・
ヒロイン唐沢雪穂を綾瀬はるか。
そして、主人公:桐原亮司を山田孝雄とした、ドラマ版「白夜行」は傑作。
私はテレビを全く見ない人間だが、こんなに人の心を動かす映像を見たことはない。
くわえて、BGMが素晴らしいのもドラマ版「白夜行」の特徴である。
ドラマ版では、本書で触れてない、二人の共謀シーンなども描かれ、ふつうに見ればかなりグロいストーリーである。
にもかかわらず、二人を応援したくなるような展開になるのは東野圭吾さんの魔術だろうか。
19年間追いかけ続ける刑事役の武田鉄矢や、図書館のスタッフとして二人を密かに見守っていた余貴美子など、一部の隙もないキャスティングであったと思う。
人間が20年間も隠し事して生きながらえ、その挙句に最後は死を迎える。
その運命を淡々と受け入れる山田孝雄に感情移入してしまう自分がいた。
自分だったらどんな選択を取るだろうか。
生きていくという意味を見つけたくなったら、「白夜行」そして、ドラマ「白夜行」。
ストーリーを盛り上げてくれたサントラと共に、マジでオススメです。