全国に新幹線網が敷き詰められ、在来線の長距離特急は数少なくなった。
私が物心ついたころ、ちょうど東北新幹線と上越新幹線が開業し、全国的に一気に在来線の昼行特急が消えていったと記憶している。
私の旅のお供は、当時からワイド周遊券か青春18きっぷだったので、東北新幹線が開業してなおかつ「急行まつしま」と鈍行列車で、北海道まで赴いていたのが懐かしい。
新幹線の巨大な高架の斜め下に、雑客列車の鈍行が走っていたなんて、今思えば隔世の感だ。
在来線の長距離特急といえば、大阪と青森を結んでいた「特急白鳥」が2001年まで走っていたので、けっこう長生きしたイメージがある。
首都圏在住者にはなかなか乗る機会もなかったが、私は食堂車も廃止された味気ない「白鳥」に、一度だけ通しで乗ってみたことがある物好きだ。
旅をこよなく愛するものとして、距離の長い移動というのは、いつでもロマンを感じるものである。
ところで、首都圏を起点として、もっとも遠いところまで行く在来線の昼行特急はなんだろうか。
ふとそんな疑問がわき、調べてみると、品川から常磐線まわりで仙台まで行く「ひたち」だった。
367.1kmを4時間46分。
この距離で長距離と呼ぶのはどうかとは思うけど、表定速度は77.2km。
途中、単線区間もあるのに、なかなかの俊足である。
さて、慌ただしく異国の旅を追い求めた2023年が終わり、年も変わった2024年初頭。
ひなびた旅情を求めて宮城県鳴子温泉へ出向く、1泊2日の旅の機会がうまれた。
では往路に、その「ひたち」に乗ってみようか、と思った次第である。
【動画での様子はこちら】
品川駅から「ひたち3号」グリーン車に乗車
列車に乗ること自体を目的とする旅。
そういう場合は、やはり始発駅からきちんと乗りたい。
品川駅は、もうすっかり常磐線への玄関口となっているようだ。
2024年の1月6日、朝7:10。えきネットで仕入れたチケットで改札口を通過。
それにしても、最近の列車は素敵だ。
とにかく、キズひとつないボディ。
長距離列車への乗車に、グリーン車を奮発。
グリーン車は、中ほどの5号車。
乗り込んだ瞬間に、飛び込んでくる多目的トイレ。
本日のグリーン車はガラガラだった。
車掌さんが、丁寧に仙台までの停車駅を説明。
でも、残念ながら、仙台まで乗り通す乗客はいないだろう。
新幹線なら1時間半の距離を、わざわざ5時間弱もかけて移動する合理的理由はない。
品川駅を発車。しばらく東海道新幹線と競争。
品川から上野にかけては、オフィス街から下町に向かって下っていく感じが好きだ。
ホームはないけど、秋葉原駅を通過。
上野駅に入線する感覚も楽しい。
さて、常磐線に入ると、しばらくは窓外の見どころはないので、品川駅で仕入れた駅弁タイム。
「30品目バランス弁当」とは、まさに多種多様なメニューで、日頃の栄養バランスの偏りを調整するにはもってこいの駅弁だった。
窓外に見どころはないなんて、生意気なこと言ったけど、実は常磐線の景色はまともに見たことがない。
通ったことは北海道へ行く際の夜行急行列車で幾度もあるけど、要するに夜間に通過しただけだ。
なので、特筆すべき景観はなくとも、車窓を楽しめるのがありがたい。
最近、めっきり少なくなった車内販売は、いわき駅までは営業しているとのこと。
列車名となっている「ひたち駅」を発車。
「いわき駅」を出ると、車窓に海がちらつき、旅情を感じるようになる。
そして「いわき駅」より北へ向かう「ひたち」は、この列車を含めて3本しかない。
全線開通した常磐線「富岡〜浪江」
ところで、常磐線といえば、忘れてはならないのは、あの東日本大震災で被災を受けた区間であるということ。
復興に尽力された方々のおかげで、ようやく開通した最後の区間が「富岡〜浪江」。
富岡駅を発車すると、心なしか景色が寂しさを含んだものになる。
途中の双葉駅に近づくと、壊れたままの跨線橋が。
このあたりは、原発事故によって、住民の方が避難を余儀なくされた地区。
そんな中、双葉駅の駅舎は建て替えられていた。
剥がされたレール跡との対比が痛々しい。
こうして、常磐線を乗り通して仙台へ向かえるのも、10年以上にわたって復興に努力し続けた関係者の皆さんのおかげ。
本当に頭が下がります。
そして、列車は定刻に仙台駅に到着。
4時間46分かかったけど、やはり在来線の旅はあきることがない。
自分の時間を自分で使っている、という意識が、楽しさを増幅させるからだろうか。
私は、このあと、さらに在来線を乗り継いで鳴子温泉へ向かいます。
仙台駅では駅弁を仕入れて。
楽しい在来線の旅は、まだまだ続きます。