灼熱のジャンタル・マンタルから解放され、菩提樹ではないが、木陰に腰を下ろし、体力を回復させる。
インド・ジャイプールの夏は5月からだというが、3月でもすでに片足は夏に突っ込んでいる。
気温は38度。ラジャスターンでは50度に達することもあると聞けば大したことはないのかもしれない。
が、昨夜まで気温5度の東京にいた身には、さすがにこたえる。

放心したまま、目の前を行き交うトゥクトゥクや観光馬の流れをぼんやりと眺めていると、次々と客引きに声をかけられる。

機械のように「ノーサンキュー」を繰り返してたけど、ふと、エアコンの効いた車に逃げ込むのも悪くないと思いはじめた。
まだインド初日だ。乗り物の相場観をつかんでおくのも悪くない。

チャーターしたタクシーで感じたジャイプールの交通事情

寄ってくるタクシー運転手たちは600〜1000ルピーとまちまちの値段を提示してくる。
その中で、「車の中からジャイプールのトラフィックを見たい」「いくつか隠れた名所にも立ち寄りたい」という私の曖昧な要望をすんなり理解した、頭の回転の良さそうな初老のドライバーと、500ルピーで折り合いがついた。

2時間のチャーターで500ルピー。
安いのか高いのかは分からない。たぶん高いんだろう。

しかし、炎天下の中エアコンの効いた空間を、2時間850円で借りたと考えれば、十分に納得できる。

つまり、交渉は納得だ。

バスからバイクに至るまで、大小さまざまな乗り物がひしめく光景はアジアの風物詩。

私は大好きで、いつまでも眺めていられる。

しかし、それをただ眺めるのと、その渦中に身を置くのとでは、緊張感がまるで異なる。

3人乗りが当たり前のバイクが、無造作にクルマの前に飛び出す。
ライダーからしたら、「飛び出してる」感覚はなく、単純に横切ってるだけだろう。

それで接触はないのかというと、そんなこともなく、よくみればミラーや膝?をコスっている。

これも擦ってる、のではなく、武道家が紙一重で相手の技を見切る感覚であろうか。

初老のドライバーは、カメラを構える私の意図を察しているのか、実に心得た運転をしてくれた。

トゥクトゥクやバイクがひしめくストリートを流れに乗ってすり抜けるかと思えば、牛が現れれば速度を落とし、猿を見つければ車を止める。



聖なる牛が現れようがスピードを落とさずにかわしていくこの国において、「減速」はむしろ危険な行為だ。
それでも、後方にもう一つ目があるかのような年季の入ったハンドリングで、状況を見極めながら速度を操るその技術は見事だった。

ドライバーに「牛は危険ではないのか?」と質問すると、「サムタイムス」との答え。
なるほど、怖そうな表情の牛ものっそりと歩いている。

こちらの牛には、耳にタグがついている。
野良牛だけでなく、飼育牛もふつうに街中を徘徊するようだ。

ところで、このドライバー、急に土産物屋の前でクルマを止めたな、と思ったら、ジャイプール民芸品の工場だった。
店主は日本語で「ミルダケOK」なんていうけど辞退。
ドライバーの友人らしい、ま、このあたりは愛嬌だ。
旧市街全体が世界遺産のこの街。営業マインドがあったって、少しも不思議じゃない。

インドにおける静寂感「ガイトゥール・キ・チャトリヤン」

さて、運転手が最初に立ち寄ってくれた場所。
場所の名前も確かめずに、入場料50ルピーを払う。

ハワーマハルの602ルピーとはあまりに違う入場料。どんなところだろうか。

運転手に聞いてみると、ガイトゥール・キ・チャトリヤン。
ジャイプールの歴代マハラジャたちの火葬場跡に建てられた慰霊碑群だそうだ。

白大理石で造られた優美なチャトリは、王ごとに意匠が異なり、繊細な彫刻が施されている。

チャトリとは、主にインドのラージャスターンで見られる、屋根の上に設けられた小さな傘状の東屋(あずまや)のこと。

雑然としたインドにおいて、こんな静寂な場所があることに驚く。
背景の山肌に咲く、おそらくジャスミンと思われる白い花も、日本のサクラのように見えてくるから不思議だ。

王族のための場所でありながら、そこには権威というよりも、どこか静謐な時間が流れていた。

たとえるなら、ジャンタル・マンタルで感じた「知の緊張感」とは対照的な、すべてが終わったあとのような静けさだ。



ハワーマハルやジャンタルマンタルを埋め尽くしていた観光客も、ぽつりぽつりと見えるほど。

ジャイプールの観光コースにも、なかなか組み入れられていない、穴場のスポットらしい。

私が「アンベール城など、主要な見どころは明日まわる」と言ったのを裏返しに、穴場を紹介してくれたのだろうか。

古今東西、老人というのはやはり徳を積んでいる。
いや、インドや中国だからだろうか。
実はガイドをやってたこともあるというドライバーに畏敬の念もわいてきた。

静かな湖に浮かぶジャル・マハル

次に連れて行ってもらったのは、ガイトゥール・キ・チャトリヤンから走ってすぐの「ジャル・マハル」。

こちらも、持参の「地球の歩き方」にも出ていない観光地だが、写真映えするということでジャイプール&観光で検索すれば、すぐにヒットする人気スポットだ。

なにが写真映えするのかというと、まあ湖の上に宮殿が浮いてるから(^ ^)

マンサガー湖に浮かぶジャルマハル。
一見すると平家建ての建物のように見えるが、実際には5階建てで、そのほとんどが湖の中に沈んでいるという。
いまは内部の見学は禁止され、かつては王族の避暑地として使われていたらしいが、そもそもどうやってあそこに行くのだろうか?

ジャルマハルからの帰途。

夕暮れを迎えつつあるジャイプールの街は、あきらかに先ほどより交通量が増えていた。

相変わらず牛はうろついているし、

サファリパークを観光バスの中から観察するような、安全なトラフィックビューイングも終わりです。

シティパレスロードに戻ってきました。
なんという門かわからないけど、ピンクシティ旧市街はいくつかのゲートが健在で、そこが渋滞の原因の一つ。
しかし、そこが渋滞の原因と思わせないような、リキシャ、トゥクトゥクにクルマやバスのドライバーたちの駆け引きは本当に見事。

トヨタ車を巧みに操り、短時間で私にジャイプールを紹介してくれた老人運転手に私はチップをはずみました。
たった850円で、ジャイプールの生のトラフィックを体験できて、静かな宮殿もアテンドしてくれた。
オプショナルツアーだと軽く数千円は取られるだろうし、多少ぼられても現地人との交流の方が旅は楽しく仕上がる。
ジャイプールの1日が終わろうとしています。
