2026年6月の某日、私は日本検疫衛生協会という公益財団法人を訪れた。
これは、アフリカ諸国渡航に義務付けられている必要なワクチンの予防接種を行うためだ。
いままで65回の海外ひとり旅、57カ国を訪れたが、いわゆるイエローカードを必要とする国への渡航は初めて。
感性が極めてシンプルにできている私は、イエローカードと聞くだけで辺境の地への旅を連想させ、それだけで心躍ってしまう。

ご注意:本記事の医療情報は、あくまで筆者が自分の渡航準備の体験記として記したものです。ワクチン接種や予防薬の服用の要否は、渡航先・旅程・体調・既往歴などによって異なります。医学的な判断については、必ず医師・トラベルクリニック等の専門家にご相談ください。
日本検疫衛生協会を訪れてみた
基本的には病院系施設への訪問は忌避する私も、会社を半休とり、旅立つ感覚で東京駅八重洲口の日本検疫衛生協会を訪れた。

場所はこちら、八重洲北口からすぐ。
ちなみに、予防接種には電話での予約が必要である。
電話をかけると、声からしてとても親切な事務員さんが、出国日、渡航予定国、簡単な病歴や接種履歴、アレルギーなどをヒヤリングして、スケジュールを組んでくれた。
8月に予定している東アフリカの旅は、ケニアから入って、タンザニアにルワンダ。
ウガンダも訪れる予定であったが、エボラ出血熱の影響で、感染症危険情報がレベル1に上がってしまった。

外務省「海外安全ホームページ」より(2026年7月)
エボラ出血熱は、基本的に接触感染なので大丈夫だとは思うけど、ウガンダを経由することで、帰国便の搭乗制限や、帰国後の経過観察などをくらうと目も当てられないので、サラリーマンの私は自重せざるを得ない。
さて、猛暑日の東京駅八重洲口。陽炎がゆらぐような灼熱の日だった。

受付は空いていて、すぐに問診票への記入。
既往症や病歴、アレルギー症などの記入。
私はこの手の症状をまったく有してないので、すべて「いいえ」。
健康な身体に恵まれたことを感謝したい。
ところで、「黄熱病」について簡単におさらいしておくと、アフリカや中南米で流行する黄熱ウイルスをもった蚊によって媒介される急性感染症。
重症化した場合20〜50%程度の確率で死に至る、恐ろしい病気である。
私は「黄熱病」と聞くと、これの解明に生涯を捧げ、自身も黄熱病に感染してガーナで亡くなった野口英世を思い出す。
彼が発見したウイルスは、実際には黄熱病ではなかったとされてるけど、まだ科学技術も未熟だった時代に、自ら感染地に乗り込み、研究する勇気をもった立派な日本人がいたことを、同じ日本人として誇りに思う。

さて、気持ちいいほどエアコンが効いた待合室で待機すること10分ほど、番号札が呼ばれ、診察室に入っていくと、座っていたのが年配の女医さん。
診察室には、世界地図が貼りめぐらされ、感染地の状況などが拡大されている。
すると、女医さんから今回の旅のスケジュールだけでなく、行動の内容、そして将来数年の旅の予定や構想をヒアリングされる。
そのままシンプルに注射を打つものと思っていた私は少し面食らった。
女医さんによれば、渡航に義務付けられているワクチンを打つというよりは、渡航先でどんな行動をするのか、つまり、団体行動なのか、仕事で行ってほとんど建物の外には出ないのか、キリマンジャロなどの山に登ったりするのか。
また、移動手段や、どんな店でどんな食べ物を食べるつもりなのか。
それによって、有効なワクチンが変わる。
さらに、ワクチンの有効年数まで鑑み、将来予想される渡航先まで考慮して、各種のワクチンを打つというのが身体のためというのだ。
そんな話を聞くと、目の前の女医さんが旅の教師のように見えてくるとともに、「国境でイエローカードの提示が求められるから」という理由だけで、身体にワクチンを埋め込もうとしていた自分を恥じた。
女医さんによると、私に推奨するワクチンは「黄熱病」「狂犬病」「髄膜炎」そして「Boostrix」というジフテリア・破傷風・百日咳の3種混合ワクチンだった。
なぜ、これらが推奨されたかというと、
- 黄熱病:実際にアフリカ諸国でいまだにみられる病原体。かつ渡航時に接種義務がある。
- 狂犬病:日本ではないが、全世界で発生している。犬やネコに噛まれたりすることで感染。発症すると、ほぼ100%死に至るらしい。つまり、野生動物に接触しうる地域に行く際は接種を推奨。
- 髄膜炎:アフリカのサハラ以南の髄膜炎ベルト地帯に蔓延する飛沫感染する病。脳や脊髄を包む髄膜に細菌が感染して強い炎症が起きる、極めて致死率の高い感染症。
- 破傷風:切り傷から入り込む病原体。重症化すると呼吸に関わる筋肉が麻痺し、窒息によって高い確率で死に至る。私も旅先でよく怪我するので要注意。
バスで陸路国境越えするような旅であれば、蚊に対する対策だけでなく、野生動物への備えも重要であり、しかも、今回以降もアフリカ・中南米・インドを予定しているのであればなおさら。
私は、素直に女医さんのすすめに従った。
4本の注射で総額88,300円という予定外の出費になってしまったが、黄熱病は一生もの。
狂犬病や髄膜炎は5年程度有効なので、私のこれから旅する地域を考えれば、身体への保険と考えるべきだろう。
晴れて手にした「イエローカード」
ところで私は、本日は黄熱病しか頭になかったし、先ほどいただいた諸注意事項にも黄熱病ワクチンを接種すると、4週間は他のワクチンを接種できないとある。
その旨を告げると、ワクチンには種類があり、黄熱病は「生ワクチン」で、生ワクチン同士はたしかに間隔を空ける必要がある。
しかし、狂犬病のような「不活化ワクチン」とは競合しないので、同日中に打てるらしい。

超蛇足であるが、私は注射が嫌いだし、血を見ると卒倒してしまう軟弱な人間。
だから、自分から注射を打つなんてもってのほかで、成人してからはインフルエンザとコロナくらいしか経験がない。
そんな人間が、続けて3本も注射を打つのだから右肩に力が入ったが、案ずることもなく3本とも注射は一瞬で終わり、晴れて私は「イエローカード」を手にすることができた。

ちなみに、黄熱病の接種を受けた当日はお酒は控えた方がよいとされる。
しかし、女医さんは、生ワクチンは10日ほどで免疫を作り出すので、それまでは控えた方が無難ですとアドバイス。私はその指示に従うことにした。
そして狂犬病は、間隔をあけて二回打つ必要があり、三種混合はその時に打つことに調整。
なので、本日2026年6月29日は「黄熱病」「狂犬病」「髄膜炎」の3つの予防接種をおこなった記念すべき日となった。
昨今、Claude Mythosと呼ばれる人間でも見つけられなかったシステムの脆弱性を発見するフロンティアAIが騒がれているが、私の身体にセキュリティパッチをあてたような心境。
なんだか、身体が強くアップデートされた気分で、東アフリカへの旅に旅立てる。

人類の脅威とされるような恐ろしげな病のワクチンをいっぺんに3種も投与したことで、さすがに1週間は安静に。
接種から5日後くらいに、くるぶしや脇の下に筋肉痛のような痛みを感じたけど、これこそが免疫ができて闘っている証。10日もたてば、何も感じなくなった。
マラリアの予防薬マラロンも常備した
ところで、アフリカでメジャーな病といえばマラリアだろう。
アフリカや中南米を中心に、全世界で年間2億人以上が感染する世界3大感染症の一つ。
しかしながら、マラリアの予防接種というのはなく、予防薬を処方してもらうのが一般的らしい。
そこで、こちらは勤め先近くのトラベルクリニックに出向いて、予防と治療の両方に高い効果を発揮すると言われている「マラロン」というマラリア予防薬を処方してもらった。
これは、1日1錠服用だけど、出発2日前からと帰国後7日間は飲み続ける必要があるので、私の場合は19日分。

1錠が1,044円なので、19日分で19,836円。
またまた、想定外の出費となった。
予防接種の88,300円と合わせると108,136円。
当然これは、医療保険はきかないし、確定申告の医療費控除も対象外である。
職責あるサラリーマンが、東アフリカをバスで横断しようとすると、旅の準備にかける費用もそれなりに大変だったという話である。